青の一族


 序文

私がこの考察を始めたきっかけは、『古事記』においてなぜ出雲は特別なのか?という疑問を持ったことだった。『古事記』はいうまでもなく日本最古の歴史書として有名であるが、ほぼ同時期に成立したと思われる『日本書記』では出雲の存在はそれほど突出していない。なぜか? この問いに答えるために、歴史書に扱われたと思われる時代の考古学的遺物や、その時代に言及している後代の書物や神社の言い伝えなどを調べる私の長い旅が始まった。
遺跡の考察は、稲作が始まったとされる弥生時代にとどまらず縄文時代にまで及んだ。そして、『古事記』『日本書紀』が上梓された奈良時代に至るまでの日本人の祖先の長い旅が記録されたのがこの二つの歴史書だったという思いを強くした。『古事記』『日本書記』は神話と言われる部分も多く、これらは史実ではないという考え方がある。しかし私はそうは考えない。多くの部族が関わる歴史書に記されたという事実は、そこに書かれるべき必然性があったことを示す。部族間のせめぎあいの中から中央集権国家への道が生まれたに違いなく、これらの歴史書にはその痕跡が残っているはずだ。
出雲が出発ということで、出雲といえば青銅器、弥生時代から考察を始めた。その後古墳時代全般について検討し、全体として時系列的に構成したが、途中必要があれば縄文時代にも言及した。弥生時代の時代区分についてはいまだに決定的な説がないようなので、私なりに以下のように区分を設定しておく。
弥生時代前期 800~300BC    
弥生時代中期前葉 300~150BC  中期中葉 150~80BC  中期後葉 80~1BC
弥生時代後期前半 AD1~100  後期後半 AD100~220
『古事記』『日本書紀』のもとになったと言われる『旧事』『帝紀』は、各部族の歴史として五世紀の中頃からまとめ始められたとされる。五世紀といえばまさに巨大古墳の時代だ。日本の古代史の最も高揚した時期と言ってもいいのではないか。古墳時代の区分については次のように考えている。
古墳時代初頭 AD220~280  前期AD280~400   中期 5世紀   後期 6世紀以降

私にとって歴史の記述の謎は出雲のほかにもたくさんある。そのうちの代表的なものを挙げる。
1神武の東征はほんとうにあったのか。あったとしたら、その時期はいつか。 
2九州は当時文化的先進地域だったはずなのに、神話の中で例えば出雲のような具体的な言  
及が少ないのはなぜか。 
3なぜ天孫は日向に降りたのか。
4邪馬台国はどこか。 
これらの問いについては、それぞれの章で副題に示して考察した。出雲については第一章、1・2については第2章、3は第5章、4は第3章である。

 また、論文を書き始め、資料を調べていくうちに湧いた新たな疑問について、さらに章を増やして検討を重ねてもいる。主にタイトルにもなった青の一族のことだ。時代を追って論を進める形式にしてはいるものの、触れている内容が多岐にわたり、またそれらが複雑な関連を持っているために全体の煩雑さはぬぐいようもない。読者の皆様にはご容赦を願うほかない。