●ファンタジー・ブックガイド● 2003年12月25日
初めに――『ファンタジー・ブックガイド』を作るに当たっては、何人かの知人友人にご協力いただいた。ページがぎりぎりで謝意を示す場所も取れなかったので、ここでお礼申し上げる。《ニムの木かげの家》のニムさん、偕成社の別府章子さんには原稿を見ていただいて、わからないことなどを教えていただいた。大久保譲さんには『アリス』についてご教示いただいた。早川書房FT文庫担当の相原さんと《TomePage》の久留賢治さんに書影をご提供いただいた。ブックデザイン(中身も外も)は西村有望さん。企画・編集は国書刊行会の礒崎さん。みなさんどうもありがとうございました。
『幻想文学』をやめたので、時間がたっぷりできて、今年の夏こそは愉しく登山、と思ったのに、何だ、この状況は。自分のページの更新すら出来ていないじゃないか。それというのも『ファンタジー・ブックガイド』なる本を作っていたせいなのである。
国書刊行会の編集長・礒崎さんの誘いに軽々しく乗ったのが間違いのもと。
良いものが出来るよ、とか、印税が入るよ、というような甘言に釣られ、ついその気になった私。もっと簡単に書けると思ったのに、めちゃくちゃ苦労してしまった。
まずは、本が選べない。
アンソロジーが大好きな東雅夫は、捨てたり取ったりするところに妙味があるとのたもうが、私はもともとがドケチな性分なので、捨てるということがうまくできない。一方、大雑把な性格なので、捨てるとなったら、全部捨てちゃうのだ。
ガイドbest100 という企画で始まったが、選んでいるうちに、20もあれば充分じゃないかという気分になった。しかしそれではいくら何でも足りないから、仕方なく足していくうちに、この程度のものを入れるならこっちも入れなきゃね、……という感じで増えていき、結局メイン134でその他250、あわせて400冊もの本に触れる結果となった。あーあ。アンソロジストにはまったく向いていない。
セレクションには本当に悩み抜いた。幅広く、というのはいらないのかも、と思いつつ、幅広くするのをやめられない。結局、ファンタジーと言ったって幅があるんだよ、ということを示すようなセレクションになってしまった。おまけに、時代的に見て重要かなと思うものに目配りしたものだから、作品の質としてはやはりゴタマゼになった。
ライト・ノヴェルを考えだしたら、もうどうしたらいいかわからなくなってバッサリ切ってしまった。
ファンタジー好きの長男は中島敦の古譚はファタンジーだと言うけれど、そんなものを入れ始めたら収拾がつかないしなあ。
ともかく、いまだにあのセレクションで良かったのか、という迷いがある。私はたぶん日本でも最もファンタジーを読んでいる人間の一人じゃないかと思うけど、そういう人間がこれを落としておきながらこれを選んでいいのか……。選ぶというのはなんと嫌なことだろう。
ともかくも買って損はないだけの本はそろえた。ファンタジーが好きだというなら、これくらいは読んでね、という程度のものだと、私としては思っている。最近書店に並んでいる新しい本を取り上げていないのは、ほとんどがクズたからだと思っていただきたい。
また、書くことそのものにもえらく苦労した。粗筋を書かずに本の紹介をして、なおかつおもしろく読めるように書くべしと言われたのである。えーっ、粗筋がおもしろいんじゃないの? と思いつつ、取りあえず、評論というか批評というか、そういう点でおもしろいということにこだわって書いた。おもしろく書けたかどうかには自信はない。
しかも、しょせん主観なのだから、もっと個人的な雰囲気を出したほうが良いとのサジェスチョンを受け、客観的である(のを装う)ことを好む私としては、まったく不得手なことを蜿々とやる破目にもなったのだった。もっと開き直って遊べば良かったのかもしれないが、そういうこともできない、型にとらわれる性分なものだから、どうにもならない。
こういうガイドを誰が買うのかもよくわからない。もちろん図書館は買うだろう。だが、どんな読者? 一応礒崎さんの要望は初心者からマニアまで。でも、そんなのあり得るんだろうか。私としては初心者向けで書きたいと思って始めたのだが、しかしそれはどうも今一つうまくいかなくて、内容がちょっと高度になってしまった。書かれていることはもっと読書をしたい、という人向け。でもそうするとセレクションが初心者向け。こんなのでもいいのか……。初心者はどうせ中はろくに読まずに、本を探す手助けにするだけだと考えて我が身を慰める。
ぐだぐだ悩んでも本はできた。印刷所のミスで、『星の王子さま』の書影がまちがっているが、そのほかにも間違いはあるのだろう。半年くらいはそういう類の話を聞きたくないものである。とにかく時間をかけて作ったので、がっかりしたくないのである。
ともあれ、うるさがたの長男が読んでおもしろいと言ってくれたので、まあよしとしておこうか。
おまけ★ボツになった表紙
無謀にもリチャード・ダッドがいいなあと思ったわけですよ。