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週刊広告論

1・鏡 リクルート
2・穿 フォルクスワーゲン
3・闇 へーベルハウス
4・女 ナイキ
5・虐 雪印
6・擬 マンダム
7・薄 サントリー
8・雫 トイズファクトリー
9・完 Z会
10・本 ミサワホーム
11・続 ナショナル
12・詩 小田和正
13・苦 新潮社
14・政 公明党
15・答 ソニー
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18・夢 ホンダ
19・正 フォスター・プラン
20・貧 日本新聞協会
21・父 ツヴァイ
22・首 サントリー
23・真 味の素
24・寥 日清
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26・裂 全家連ほか
27・P ポラロイド
28・M JASRAC
29・Q キューピー
30・幸 千趣会
31・萬 ANA
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39・護 GEエジソン生命
40・国 スクウェア
番外編 スイス航空
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43・曝 宝島社
44・鴎 ツーカー
45・心 三菱自動車
46・莫 トヨタ&日産
47・人生 セイコー&ファイザー製薬
48・お詫び 明治製菓
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54・セブンイレブン
55・日本広告機構
56・キリン・ラガービール
57・缶コーヒー3種

週刊広告論
第1回 「鏡」 

リクルート/2001年4月3日(火)朝日新聞朝刊5面


 ほんの四半世紀前まで、広告は煽動的な、悪しきものという認識が根強かった。何もかも広告でできているような社会を描くSF小説や映画も少なからず存在していた。それがいまや、広告は自らが死と向き合っているかのようなせっぱ詰まった様相を隠そうともしない。この文章を書くために、一週間の新聞広告をめくり返したが、いかに自分が広告を見ていなかったかとあらためて驚いた。しかも何か新しい言説が構築できるような広告など、そうはなさそうな気配が4月第1週からただよっている。すぐれた、つまり消費者に積極的に無駄遣いをさせたり、株価を操作したくなるような空想をかき立てる、ある意味最悪な広告。そんなものはそうそうないのかもしれない。しかし筆者は新聞全国紙15段(1ページ)に広告を打つために要するコストや時間、人力というものを少なからず知っている。日々広告年鑑を繰っているようなプロたちが千万単位の費用とありったけの能力を振り絞って制作したであろう「作品」は、何か語るべきものを持ち合わせているのではないか。思わぬ戦略や狡猾な知恵、新しい価値が隠されているのではないか。
 今回の広告は、リクルートという会社の企業広告(企業の好感度を高める広告)であり、同社の女性向け就職情報誌への購買支援広告とも言えなくはないような側面も持っている。まず紙面全体が青く太いラインで囲まれている。カラーの写真以外はすべてその一色だけが使われている。シンプルで清潔な印象づけ。不自然に正方形の写真が紙面左下に配置されている。もっとも大きな文字は若い女性の手書き文字で「FOLLOW YOUR HEART」、広告のキャッチフレーズとしてはかなり難しい部類に入る英語で書かれてある。女性の写真は、少しぼんやり見えるような処理がされており、自分に自信がないといった目でカメラを見ている。朝、鏡で疲れた自分の顔を見ているような印象。つまり、この写真はターゲットである若い女性に対し、自分自身を映し出す鏡に見えるように企図されている。
 手書き文字も、写真も、この広告に感情移入してくれと演出されている。キャッチコピーの横には小さく、「本当に好きなことは何ですか」、左下には「平凡な人生なんかひとつもない」、右下にはさらに小さな文字で、「4月、新しいあなた始まる」とメッセージが点在している。これらは弁証法でできている。最初に脅し、次に反論、最後に救済といった順番でメッセージを読み手に何とか実感させようとする手法。その背景には、転職しようとする女性は、アイデンティティが弱っているだろうというあて推量がある。物語の結末でもある、「4月、新しいあなた始まる」がもっとも小さな活字になっていることが、そうした文脈の持つ悪どさに自覚的であることと、なお謙虚であろうとする狡猾さを感じさせる。
 写真のテイストや手書き文字の感じは、秋山晶というコピーライターの第一人者が制作したキューピーハーフのシリーズ広告(97~)にその起源が求められ、この広告の肝である、「本当に好きなことは何ですか」というメッセージは、10年以上前の88年に糸井重里が書いた西武百貨店の広告、「ほしいものが、ほしいわ。」より遙かに後退している。とはいえ、この広告は現在のこの業界での第一線のレベルだといえるものである。そして、そのクオリティがどれほど現在の消費者(わたしたち)に有効であるかを測る物差しを、広告業界は持ってはいない。
 果たしてこの広告は、ターゲットの女性にとって、快を映しているのか、不快を映しているのか?
リクルート
キューピーハーフ