●日本幻想作家事典について● (2014年6月25日)
『日本幻想作家事典』(2009年10月 国書刊行会)刊行の経緯をお話しします。1991年『幻想文学』の別冊として作家を項目とする事典形式のガイド『日本幻想作家名鑑』を刊行。東雅夫・石堂藍の共編著である(部分的に須永朝彦氏らに執筆をお願いした)。全体の形式は東が決めたが、収録作家については、小説家と詩人を網羅する、ということに二人で決定した。「網羅」は常に『幻想文学』の目標でもあった。もちろん網羅はできていないが、目標は常にそこに置いている。
執筆区分は前書きにおおざっぱに記されているが、個別には定めていない。煩瑣になるということ、互いの原稿に手を入れている(主に東の原稿で足りない部分を石堂藍が追加)という理由による。
前書きにおおざっぱに記された区分は次の通り。
児童文学、ファンタジー、詩の全般と、SF、純文学、時代小説の一部を石堂が、その他はすべて東が担当した。
児童文学はすべて私が担当したため、東執筆の純文学作家の児童文学項目も私が執筆している(豊島与志雄・夢野久作・佐藤春夫など)。また、児童文学が主で、純文学系作品が従である作家についてもすべて石堂の担当であった(小川未明など)。
東雅夫はこの中で主要な幻想小説家の項目を担当し、これが彼のアンソロジーの仕事の礎をなした。
名鑑の作成は非常に大変で、先人の幻想文学探査の努力に多くを負っているが、また、同時に無数の書物を読むという努力の賜でもあった。
また、これまでなしてきた仕事を使い回すという側面もあった。近代ファンタジーについて探った特集のブックガイドは、作品の選定も含めて主に石堂藍が担当したが、この原稿などをもとにして名鑑の記述がなされている。文章の重複からその跡が見て取れる。
(なお、執筆時期は1991年の早春~初夏。『幻想文学』31号と32号の間に刊行されている。)
石堂藍は、刊行後、間もなくより、この名鑑のデータに書き足すためのデータ収集に着手。
作家を少しずつ書き足し、誤りを正して、決定版をいつか刊行したいと考えたのである。
2000年頃、その気運が高まったと考え、古典部分の執筆に本格的に着手。京伝・馬琴・秋成といった大物作家は東が執筆するだろうと考え、それらを除くところから書き始める。最も古い原稿は残っていないが、その作成途中の原稿はある。
しかし、東は動かず、この時には流れてしまった。
その後も石堂藍は事典の増補を続け、2007年にようやく、国書刊行会と話がまとまり、事典を刊行することとなった。
この後、2年間、石堂藍はこの仕事だけに邁進。
東にも旧稿の見直しを促したが、多忙のためか意欲のなさのためかはわからないが、本格的な書き換えはなされなかった。(それはちくま文庫『日本幻想文学事典』で果たされたものと考える。)
結局、京伝・馬琴・秋成など、残っていた古典部分も石堂藍がすべて執筆した。
古典部分は別に作り上げていったので、古典のみのデータも残っている。古典については、国書刊行会の編集者(礒崎純一さん)の紹介で、江戸文学の研究者で幻想文学の愛好家だという佐藤至子さんに校閲をお願いしたということもあり、石堂藍による執筆であることは、国書刊行会の方で請け合ってくれると考える。
東の加筆分は、まずレビューなど、過去に書いた原稿を自由に使って良いという許可とデータを石堂藍がもらい、それを加工して書き加えるという形で行った。この際に使用した原稿はすべて取ってある。何をどう書き加えたのかを示すことができる。
東にはそうしてできあがったものをゲラのチェックという形で見てもらった。2009年春頃から。ゲラはもっと早くに1月頃から渡していたが、見てもらえたのは4~5月だったと記憶する。ゲラによる訂正はあまりなく、データでいくつかの項目の追加、また書き足しを行った。ただしそれは多くの分量ではない。このときのメールデータは恐らくない(古いパソコンを廃棄したため)。
しかし2008年のデータが残っている。ここまでのものについては、東の加筆は、渡してもらった古いデータの書き加えのみということになるので、傍証にしかならないかもしれないが、石堂藍が何をしたかは示すことができる。
要するに、上記以外の追加分(名鑑から増えている分)はすべて、石堂藍が執筆したものである。例えば中村真一郎や森敦などは石堂が新たに書き加えた作家だ。『名鑑』では除いていたSFもすべて書き加えたので、海野十三や小松左京のSF作品については石堂が追加しているのである。
また、国書刊行会の編集者の助力を得て、旧版の記述の見直しを行った。手伝ってもらったのは引用部分のチェックである。石堂は、複数の文学事典等を参照し、経歴などの見直し、年代的な誤りや不統一(刊行年か初出年かというような)を極力正した。また、内容の読解について誤りだと思われたものも書き直した。これはすべての項目について行ったもので、東分、石堂分といった区別は付けていない。
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