神林ワールドで勝手に遊ぶページ★戦闘妖精雪風編★
1.フェアリイ空軍組織図 2.フェアリイ空軍概説 3.FAF関係者人名録
フェアリイ空軍[FAF]概要
●FAFの規模●
FAFは約十万人で構成される。地球側の出張機関(監理部、情報軍団、システム軍団、教育軍団のものがある)、約二万の人員を擁するフェアリイはじめ、ブラウニイ、シルヴァン、トロル、ヴァルキア、サイレーンの六大基地と各前線基地すべてをあわせた人員数。フェアリイ星には軍人、軍属以外の一般人は存在しない。文官・技官もFAFにおいては全員軍人(しかもすべて将校である)として任官される。例えばコンピュータ・システムのメンテナンスのために出向している日本エレクトリック社の社員も軍人扱いである。基地の地下に広がる生活空間で仕事をする者も軍属の資格を得てフェアリイ星に来ており、つまり軍隊から給与をもらっているのである。バーテンダーも男娼も女娼も軍属である。従ってフェアリイ星では通常の意味での経済活動はなされない。航空機総数約八〇〇。地球側の訓練機数約四〇、戦闘・偵察・テスト機数約六六〇。輸送機、給油機、プロペラ機などを含めて約一〇〇。
●予算について●
現在の年間の経費は約八百億ドル。各国の拠出によって国連がこれを管理するが、運営はFAFに任されている。こうした国際的な組織に金を出すのは、どんな国でも嫌がるところだ。ジャムに対する戦いが架空のものだという認識が万が一あるとすれば、そんなものに金を出す義務はないとばかりに踏み倒す国が跡を絶たないだろう(国連そのものへの拠出金がしばしば踏み倒されているのを見ればわかる通りだ)。しかし現実はそうなってはいない。ジャムは現実的な脅威として認識されているのだ。一般レヴェルの認識では、ジャムとの戦争は軍産複合体によるでっちあげだとの見方もないことはないが(例えばスプリング・マイヤー『ジャムの侵攻はなかった――GE&MD社の陰謀』といったキワモノ本を見よ)、上層部ではジャムは恐るべき敵として感じ取られていることはまちがいない。実感として、ではなく、あくまでも書類の上で。そして零の言うように、一紛争相手としてではあろうが。FAFの報告書は日々コンピュータによって作成され、地球とフェアリイ星との通信手段が確立していないため、地球側とFAFとのコンタクトを専門に取る監理官によって運ばれる。そしてFAFを運営していく資金が回されてくるのだ。資金がなければ、さまざまな設備を有しながら、食糧生産手段は持たないフェアリイ星のFAF軍人は飢えてしまう。つまり、規模的に言えばRAF程度の規模のFAFであるにしても、地球人民の税金によって成立していることはまちがいなく、個人の意識がどうあれ、その限りではFAFは地球人のために働いているのだと言うことができるだろうし、地球の人民はジャムに抵抗しているのだとも言える。零は地球の人間がジャムの脅威に対して無関心だというが、FAFがジャムを抑えているかぎり、そうなるのは当然ではなかろうか。人間の共感能力が及ぶ範囲は狭い。ヒトの類推能力は、抽象的な面では宇宙規模だが、実感的な面では、およそ個人的な部分にとどまるのだ。推し量ることはできても、つい間近のことでなければ我が身のこととして実感はできない。そういう鈍感な生き物が人間というものだからである。零もまたジャムと直接戦うことがなければ、何も感じなかったことにちがいない。
また、もしも零が感じたようにジャムによる情報操作が既になされていると考えるならば、その時点でFAFは既に負けている。従って、その推測は誤りだという希望的観測を抱かずにはいられない。そうでないとすれば「ジャムも必死なはず」というブッカー少佐の認識がまちがっていることになる。ジャムはFAFと戦ってなどはいない、FAFを実験体として観察しているだけだということになってしまうだろう。
●FAFのパイロット●
パイロット養成のため要する経費と時間は、脳に直接刺激を与える方法により、過去の時代よりは遙かに節約されるようになったが、それでもやはりシミュレーション・フライトと実地体験をあわせて四〇〇時間を越えるほどに必要であり、途中の段階で不適の判断を下され、機体整備などに廻される場合も多い。兵士一人のミスによって失ってもかまわないほど、戦闘機は安くはない。パイロットには運動能力のほか、理解力、判断力、適応力といった知力が要求され、一般的な水準から見ても優秀な者が要求される。パイロットはエリートであるという状況は、FAFにしても世界のどの空軍とも変わるわけではない。犯罪者を多く抱えるFAFでも選抜は厳しく行われており、一般の労務には回すには惜しい者をパイロット、フライトオフィサの養成へと回すのだと思われる。また、後に、軍人として回収するため、能力のありそうな犯罪者を選抜してFAFに送り込んでいる国もあるようだ。深井大尉が母国の軍隊に強制連行されそうになったことはその傍証と言えるのではなかろうか。戦闘機の性能が向上するにつれ、40歳までと言われたパイロットとしての寿命は、どんどん上限が下がる傾向にある。特にシルフィードのような出力の大きい加圧のきつい戦闘機では、体調維持に気を使い、長く務めてもせいぜい32、3歳までとされる。従って特殊戦では、若さと、なおかつパイロットとしての最高度の技量が要求される。特殊戦配属は、心情的にどう感ずるかは別として、最高のエリート・コースなのである。深井大尉は階級こそ大尉であるものの、特殊戦一番機の乗員であるという事実からして、ブッカー少佐が実質的に大佐程度の権限を行使してしまうのと同様、佐官クラスであると言える。
シルフィードは一機二億ドル以上はすると見積もられているが、それに比して、人間の価値はかなり低い。特殊戦機ともなれば十五億ドルは遙かに超えると言われており、開発費などを考えれば、それはすさまじい金額となることだろう。雪風に乗るということは、きわめて特権的な行為なのだ。「おれには関係ない」ではすまされまい。軍の上層部が零を危険視し、雪風搭乗の任務から外せば、それで一巻の終わりである。深井零が雪風のような高機能の戦闘機と一体化を図るということは、対内戦略的にも有効である。雪風が零以外の人間には使いこなせないというのであれば、上層部は、零を使わざるを得ないだろう。特殊戦のパイロットたちは、この戦略が有効であることをおそらく知っており、零に追随する方法を取っているのではないかと思われる。あらゆる場面で生き残るために、これはまったく賢い戦術と言えるだろう。
●ジャムと人間の意識について●
人の進化を推し進めたのは類推共感能力であるという説がある。つまり擬人化――というよりも擬我化する能力である。赤ん坊にとって、世界は唯一絶対の「我」によって成り立つ。長ずるにつれ、我による統御の利かない部分の存在を知り、唯我論の世界から抜け出し、他者を知る。そして他者にも自分と同じような「我」という世界があることを推測するようになる。多分そうなのだろうなあ、と思うわけだ。そしてそれは対人間ばかりではなく、その他の動物や場合によっては無機物に対しても及ぶ。相手の行動様式あるいは存在様式から自分と似たような意識作用があるのであろう、と類推するのだ。その類推能力が人間としての脳の発達を促してきたと言うのだが、同時にその類推能力は、人の思考を限定しもする。人は、「他人は自分とは違う考えを持っている」と考えることを、自然にはできなくなってしまったのだ。意識していないと、何でも人間的に(己の感覚を絶対のものとして)とらえてしまう。例えばツバメがヒナにエサを運ぶ様子を見て、あるいは母ワニが尻尾を丸めてプールを造り、その中で子ワニを泳がせる姿を見て、どんな動物でも子供を愛するのだなあとつい考えてしまう。ヒトは他者のように感じることはできない。ましてや機械のようになど。人は雪風になって考えることなどできようはずもない。ジャムであるとはどういうことかと感じることも不可能だ。漠然と類推するだけだが、それも常に自己を判断基準とするよりほかない。どのように頑張っても人には想像力の限界があり、他者の真の意識には触れ得ないのだ。
ジャムが「我」という意識を持ち、それを相対的に説明できないのなら、ジャムは唯我論の世界にいるのかもしれない。しかしこれもまたいかにも人間的な、偏狭で希望観測的な見方に過ぎないのであろう。
*『戦闘妖精雪風』『グッドラック』に基づいて作られています。近年の作品は考慮されておりません!