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神林作品ガイド

神林作品ガイド①★短篇集★

『新版・狐と踊れ』

『SFマガジン』の第五回SFコンテストで佳作となり、神林長平のデビュー作となった表題作はじめ全九篇を収録する短篇集。旧版は、短篇版の「敵は海賊」を含み、ミステリ連作を除いた全六篇構成だった。2010年のトールサイズ化に伴って再編され、『敵は海賊・短篇版』に収録された「敵は海賊」ははずされ、「落砂」~「奇生」の四編が追加された。
「ビートルズが好き」音楽が耳から離れなくなった少女を描く恋愛譚。
「返して!」親が子どもを育てるための資格を取得していなければいけない世界が舞台。姉弟の近親相姦によって子どもができてしまうのだが……。同じように姉弟の近親相姦が物語を動かす力となる『猶予の月』に果してつながるものかどうか。
「狐と踊れ」薬で抑制しないと人の胃が逃げ出してしまうという奇妙な未来社会が舞台。人間は階層別に分けられていて、胃を無くしてしまった者は最下層で生きていくしかない。そんな世界での主人公の運命を軽妙に描いており、文体的にも内容的にも神林らしさは既に顕著に見て取ることができる。処女作にすべてがある? まさか。そんな意味ではない。
ハヤカワ・SFコンテストの最終選考会の模様を読むと(SFM79/9)、小松左京、眉村卓、伊藤典夫のそれぞれのSF感覚がわかっておもしろい。いちばんこの作品の特徴をよく理解しているのが眉村。自然への解放をメインテーマとした不条理小説と読んでいて、だからこそこの文庫本の解説を書くことにもなったのだろう。伊藤は独立しているはずなのに胃が生物学的に描かれていないのがだめで、小松はおもしろくて好きだけどアレゴリイが弱いので解釈に困る、と言っている。たぶん伊藤の感覚が最も普通のSF的なものだろう。そして神林長平はそこからは、はずれるのだ。寓話的、と言われてしまうのは小説としてまだ弱いからで、そうした欠点は作品を書くことで克服されていく。
「ダイアショック」宇宙をまたにかけるセールスマンが宇宙船の事故で未知の星に不時着、カッパのようなそこの異星人と交流するが……。タイトルは異生命体との遭遇によって受ける精神的ダメージのことを指すという。ギャグ短篇。
「落砂」
 砂丘の間近に住む夫婦。夫は自動車の設計屋だが、在宅勤務で浜の散歩を日課にしていて、変なものを拾って帰る癖がある。妻は自宅を小店舗にしていて、子供相手に文具などを売ったりしている。あるとき、夫は中身の詰まった手袋を浜で発見する。妻はそれは死体だと言うのだが……。夫と妻それぞれの一人称が交互に展開し、作品内真実がわからない構造になっている(キイ・パーソンを作っているところが引っ掛かるのだが)。SFではないが、最後は完全な幻想小説となる。
「蔦紅葉」
 物語作家として生活の一部を支える母と、それに密着する一人娘、理解のない夫=父の三角関係を描く異色作。SFではまったくなく、ファンタジーというほどでもない。いわばフェミニズム小説だが、母娘の密着ぶりがどこかの物語から借りてきたよう。神林としては異色作だが、やや無理がある。
「縛霊」
 古い貸家の床下で死体が発見される。女性画家・彩子とオカルト的な心理学研究者の男との夫婦が怪しいとにらんだ刑事は、ギャラリー・彩へと赴くが……。意外な展開のオカルト・ミステリ。この発想は「エグザントスの骨」に続いている……というとネタばらしになってしまう。
「奇生」
 高校卒業後に目的も定めず両親と暮らし続けている無気力人間Kが両親を殺した。なぜか? 心理ミステリと言えるだろう。高専卒業後、引きこもりに近かったらしい神林自身の体験が反映されているような作品にも見えるが、むしろ時代の病理を的確に描いている諷刺的な作品として読む方がインパクトが強い。一昔前の作品だが、時代が地続きで、悪状況が加速しているために、古びた感じがまるでない。今や、指図されなければ動けない人間が本当に多い世の中になったのだ。
「忙殺」エントロピー理論を忙しさに援用した、時間テーマの作品。小品ながら非常にユニークな発想に支えられていて、理論派には堪えられない逸品。

『言葉使い師』

●全六篇を収録する短篇集。どの作品も一般的なSFの設定を思わせるので、初心者にも読みやすい。内容的には、記憶・意識・現実認識など、いかにも神林長平らしいモチーフが扱われていて、結末の落とし方にもきわだった特徴がある。神林入門の書として最適の作品集だと思う。
「スフィンクス・マシン」 描けなくなった画家が、モチーフを求めて訪れた荒涼たる火星で、無機的生命体と接触するさまを描く。二者のかけあいが神林長平。
「愛娘」宇宙空間での出産を描いた小品。ティプトリー・ジュニアを思わせるようなフェミニスム・テーマの作品。
「美食」 クローンもの。このタイトルでクローンものとくればほとんどストーリーは分かったも同然か。
「イルカの森」人間の文明が滅んだ後の未来世界に不時着した男を描く、「猿の惑星」風の話。
「言葉使い師」言語活動が一切禁じられ、テレパシーのみによって意志の疎通を図る社会を舞台にしたもので、後の『言壺』に連なる一作。言語による表現が本質的に持つ危険性を先鋭的な感覚で描き出している。薔薇のイメージを初めとして、映像的にも鮮烈。第14回星雲賞日本短篇部門受賞。
「甘やかな月の錆」不死テーマの作品。少年の一人称による。

『時間蝕』

●四編を収録する短篇集。
「渇眠」「ここにいるよ」「兎の夢」は『鏡像の敵』に再録。
「酸性雨」コンピュータをネタにしたミステリで、十年以上前の作品だが、今なおそのままSFとして通用する。

『言壺』

●短篇「言葉使い師」でも展開されていた独自の小説論、言語論、ひいては社会論、存在論が語られているSF連作集。言葉の魔力、あるいは物語を書くことの意味が突き詰められていく。作家の文体や志向を完璧に把握し、「あなたの書きたいことはこういうことか」と問いながら文章を作り出していく、恐るべき文章作成支援機能が搭載された〈ワーカム〉と呼ばれるニューロ・マシンなどのガジェットをフルに活用することで、メタノベルをエンターテインメントとして読ませることに成功している。つまり言語哲学そのものも興味深いのだが、そうした哲学的なものが、あくまでもSFとして語り出されてくるところに――神林一流の理論展開が物語の展開と美しく二重に重なるところに魅力があるのである。SF大賞を受賞。
「綺文」〈ワーカム〉で小説を書こうとしている小説家がいる。だが、マシンは彼の文章「私を生んだのは姉だった」が誤りだからそれを承認することは出来ない、と頑なな態度を取り続ける。小説家は自分の語りたい物語を語るためにマシンに戦いを挑むのだが……。
「似負文」匂いによって物語を想起させる未来のワープロの話。
「被援文」ワーカムを使用している作家は、それが自分の書きたいものだと思いながらも、確かに自分の意志で書いているのか、それともワーカムに書かされているのかわからなくなり、当然のことのように自分自身を見失っていく。
「没文」海の中にそびえ立つ高層ビルに暮らす作家の話。過去の小説に書かれている通りに釣りをやってみる、というようなのんびりとした感じが良い。
「跳文」ワーカムに入り込んだバグによって別の現実へと移行してしまう作家を描く。
「栽培文」言葉を外部の実体(植物)として表現する世界。言葉の種を植えると、まさしく言の葉が育つという設定で、この植物的な言葉を用いての戦いのありさまが幻想的に描かれている。凄絶な美しさを持つイメージが繰り広げられる傑作。
「戯文」引退して小説を書くようになった父と、ワーカムを通じて交信している息子(作家)の物語。やはり現実はワーカムによって歪められてしまう。
「乱文」物語を書き続けることでワーカムとの対話が世界のすべてとなり、現実と幻想との境が消滅してしまう作家の物語。きわめて意味深長かつ現代的な問題を孕む。
「碑文」エピローグ。

『小指の先の天使』

●ヴァーチャル空間で生きることが描かれている作品をまとめている。「父の樹」「小指の先の天使」「猫の棲む処」は連作として考えられたもののようだが、そのほかはそうではない。しかし、こうしてまとめると連続性がある程度感じられるのがおもしろい。
「抱いて熱く」
近未来、謎の嵐の後で多くの人々が燃え尽き、残された人間も互いに触れ合えば燃え尽きる身体となってしまった。若い男女は街から街へと放浪して歩いているが、四駆で乗り出した砂漠(かつての湖底)で、奇妙な村に行き着く……。終末ものの短篇。この災厄を逃れるためには、国連軍によって仮死にさせられ、火星へ運ばれるしかないという設定(それも事実かどうかはわからないのだが)、不思議な村の謎から絶望的な状況の中での恋愛の決着の付け方まで、神林長平らしさが既にありありと現われている。小道具の出し方などは、さすがに若い。
「なんと清浄な街」
哲理学の教授である私はと刑事の依頼を受け、とある事件の調査にかかわることになった。その事件とは、草食動物が肉食になってしまうという、奇妙な事例の続出だった。私はいわばVR世界内に生きているわけだが、どうやらその世界の構造外から操作している奴がいるらしい。つまりこれはメタ事件なのだ。VR世界にいることを思い知らされるのは白けることだ。だが白けるなどと言ってはいられない状況が次第にあらわになってくる……。
「小指の先の天使」
村外れに住む黒衣の老人のところに何も知らぬ少年が弟子入りにとやって来る。村の長老たちは人身御供のつもり。だが、老人は前世代の遺物を守る番人に過ぎなかった。過去の遺物を覗き見るという、二人のささやかな冒険が始まる。
科学が過去の遺物となった世界を舞台に、ユーモラスで、ほんわりとした暖かみのある物語が語られる。ほのぼのとしたテイストで、この作品には「言葉や物語には嘘も本当もない」という名せりふもある。
「猫の棲む処」
前掲作と同じ、かつての世界の遺物の番人である老人が、ヴァーチャル空間に意識だけの存在として生きている少年と交流し、猫を体験させるために彼に身体を貸すのたが……。ソロンという猫が主役である。
「意識は蒸発する」
旧い文明の異物であるヴァーチャル空間を研究するため、そこに意識を潜らせた主人公の体験を描いている。人の姿は見えないが、気配だけは感じられる、幽鬼のような街で彼が見た真実は……。ユニークだが、短く説明するのが難しい一篇。
「父の樹」
何らかの人工的な大荒廃後の世界。肉体を失い、人工的な有機電脳へと自らを改造させた父。肉体を持って、常に父の世話してきた息子。二人の対話で人間とは何かが考えられていく。脳だけの存在では生きているとは言えない、と言って自らを改造できる父が変態したものは……。結末が鮮やかな一編。

麦撃機の飛ぶ空

●「ログイン」に連載した作品のほか、ショートショートを中心に集めたもの。
「ALL CLEAR」
世界大戦後、地球は無数の疫病に覆われた。元少尉のヨシアは超古代の最終兵器を見つけたのだが……。クールな話だ。
「愛しのリューラ」
時空を超えて犯罪者を追うロボット刑事と恋人を殺した女リューラの物語。
リューラは、愛していたし撃つつもりもなかったけれど殺してしまった、ロボットのあなたにはわからないでしょうね、と言う。ショートショートなのでこういうところは物語的なコンヴェンションに従っただけなのだろうが、ロボットでなくともどうしてなのかわからない。もともとこういう設定はステレオ・タイプになりやすいものだが、まったくなにゆえに恋人を殺さねばならなかったのだろう? リューラはあるいはマーゴ・ジュティの姉妹なのだろうか。
「ファントム」
インターセプターのような機能を持ち、自己保存し続けるコンピューター・ソフトウェア=アッシムをめぐる話。実は車の自動操縦というのが隠しテーマ。エンジンを総合制御するEECユニット搭載の車が出てくる。何か不調を察知すると、EECは即座に反応して処理するのだが、どうやらそれが作者には気に入らないらしい。アッシムと一緒に処分してしまった。メカニカル・バックアップだけでこの上なく安全な運転ができるのだ、と。
「過速【ハイパー・スピード】」
農耕的世界に君臨する前時代の遺物であるマザー・コンピュータを退治する話。退治の方法がすばらしくて、これは笑える。
S・キングが『暗黒の塔』でコンピュータを打ち負かすのに、正統的な思考のそれをバカバカしさと下品さで悶絶させるという方法を取っているが、この作品にもそれと似たような発想がある。決定的に違うと思うのは、キングの方は結局美学で、別のアルゴリズムへの変換がうまくいかなかったというものだったのに対し、神林長平はあくまでも物理的に、下位の計算速度に合わせたためにバカになったとするあたり。要するに機械に沿った思考をしていると感じられるところ。人間的に翻訳すると「あまりの遅さに発狂した」となるのだが、前提として機械的なものが考えられていて、なおかつ逆転的な発想になっている。キングの場合は、要するに計算速度が遅い(つまりバカ)から負けたのだが、この作品では速すぎる(利口すぎてバカにも合わせられる)がゆえに負けるのだ。
「マシン・チャイルド」
コンピュータとしか会話できないMと彼の開発したAIの物語。感情が稀薄な人間と、感情を理解する機械という逆転の奇妙さ。
「God be with you」
「ここにいるよ」をちょっと想起させるような、でも全然違う作品。意識があるとは思われていないシリコンと金属でできた原始的生物と少年の交流を描く。
「エデン」
アダムとイヴのパロディ。一つの肉体に三つの意識が宿っている。祖父の意識、父の意識、本人の意識。身体はクローンで、意識も結局はみな同じもの。だが序列がある。身体を使えるのは父、祖父は教育係、本人は子供として次の肉体が使えるのを待たねばならない。だが、そんなのはいやだ、早く身体を得たい、特に性的なことがカギだ、と彼は思い……。ちょっとした小品といったところか。
「努髪」
鬱憤晴らしの対象を提供する店の話。星新一「悪魔」を思い出させるテーマだが、軽妙な文体に神林長平の魅力がある。
「和の君」
ある朝目覚めると、なぜか下駄しか履けない体になっていた。やがてパンツも背広もダメになり……。軽いギャグ。
「とんでもない猿たち」
最近猿が礼儀正しくなったというので、私たち夫婦はお茶に招待したのだが……。これはそのままリアルにイメージするとグロテスク。しかしその元ネタは、アホのような駄洒落一つにちがいない。
「射性」
脳電磁波でコンピュータをダイレクトに操作できるような脳構造を持つアンドロイド(ハイブリアン)が主人公。職業は記者であり、戦闘だけが延々と続けられている囚人惑星メルスに取材へ来たのだが……という設定である。性的な快楽を感ずると爆発する脳、そりかわりに殺し続ける男たち。エロス、生存、殺戮の快楽、オーガスムといったテーマで展開される。もちろん人間とは何かというテーマが背後にある。
「麦撃」
砂漠の村・祖宇土【そうど】と胡無良【ごむら】はいつ果てるとも知れぬ戦いを続けている。報復合戦さえやめれば問題なく暮らせるはずなのに、戦争のせいでいつも飢えている。なにしろ爆撃機は麦の燃料で飛ぶのだ。弾は岩石。殺した敵の肉は食料になる。とんでもない世界。ラストの一行がすばらしい。
「炎帝朱夏」
極寒の惑星にいる語り手が、炎帝の支配する朱夏という暑い世界を思う。朱夏は過去と読みとれる。どのような経緯でそうなったのかは、個人個人によって想像が膨らむだろう。

鏡像の敵

●『時間蝕』を絶版にし、未収録作を加えて再編したもの。
「渇眠」宇宙船から救難信号をキャッチした男たちが遭遇する正体不明の脅威を描いたもの。ハードSFとしてのテーマは時間と睡眠との関係。
「痩せても狼」
久方ぶりに故郷へ帰った泥棒の二人組。牧歌的だった故郷は近代的に様変わり、貨幣が脂肪として蓄積される社会に変貌していた。幼なじみの憧れの少女は、育児園時代のいやなやつの妻になっており、しかもあまり幸福そうではなかった……。快作。設定もおもしろいが、オチがまさに神林的明るさで最高に楽しい。
「ハイブリアンズ」
「射性」と同じ機能のハイブリアンの記者が主人公。鏡世界に入り込むという形の宇宙航行法(時空ドライブ)が実現している世界。鏡世界とは結局別次元の地球のことなのか、それともまったく別の次元に行っているのか、分かる方法はない。しかしそれが分かるような装置を作ろうとしている科学者たちがいて、そこへと赴こうとしているのだが……。設定が何だかよく分からない(私の頭では理解しきれない)が、話としては『機械たちの時間』のようになる。
「兎の夢」『帝王の殻』で本格的に描かれることになるパーソナル・コンピューターPABのある世界の話。洩れている電磁波だけからPABの情報を読みとれてしまう特異体質の男が現実を失う話で、とても神林らしい作品。
「ここにいるよ」やはり時間テーマの作品で、時間に対する感覚が狂っている五歳の少年が主人公。少年に呼びかける声が、少年がかつて生きていた遙かな星と地球との関係を語りかけ、真の姿へ目覚めよと促す。抒情を漂わせながらも、人間に対しては酷薄な側面もある物語だ。
「鏡像の敵」
怪魔に憑依された人間を退治する任務に着いている宇宙軍の進藤中尉は、強力な怪魔に出会う。それはすべてはお前の幻想に過ぎないと言って、彼の意識を揺らがせようとするのだが……。現実を反転させ、またさらに反転させる、神林ワールド。物語としては決着を見るけれども、これほど曖昧な世界なら、疑いは残らざるを得ない。怪魔の幻想がうるわしく、ラストの展開にもうっとりとさせられる作品。

いま集合敵無意識を、

●外伝的作品などを収録。
「ぼくの、マシン」
 「戦闘妖精・雪風」外伝として書かれたもの。深井零の子供時代を描く。コンピュータが端末としてしか存在していない世界で、パーソナルなコンピュータを求めようとした少年を描いている。フォス大尉による心理分析セッションとして描かれている。
「ウィスカー」
 『七胴落とし』を思わせる世界を舞台にしている。精神感応力が大人になっても残っている男と、自分の精神を外界のものに投影して、別のものに育て上げた少年との戦いを描いている。
「切り落とし」
 仮想空間にジャックインするのが当たり前な世界。しかしジャックインは自我を分裂させることがあり、知らぬ間に多重人格になってしまうという設定。バラバラ殺人をめぐるミステリとなっている。
「自・我・像」
 ドゥウェル氏は自分との対話に違和感を感じる。この頭の中の声は、もしかして本当は「他者」ではないのか? 逆転に次ぐ逆転で、めくるめく感覚を味わわせる、まさに神林作品。ネット内の言説というモチーフも引き入れつつ、メタフィクションをも展開している。
「かくも無数の悲鳴」
 追われる〈俺〉が逃げ込んだ酒場で、そのマスターから、〈俺〉がゲームの駒だということを知らされる。〈俺〉はプレーヤーたる異星人と勝負することになるのだが……。『敵は海賊・正義の眼』とも、また前掲の「自・我・像」とも響き合う小品。現実の在りかはまったく見えない。
「いま集合的無意識を、」
伊藤計劃追悼エッセー風小説。「さえずり」(ツイッター)の中に死者の声がまじる。