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神林作品ガイド

神林作品ガイド⑥単行本未収録短篇★

ジェイク&コーパス・シリーズ

「幽かな効能、機能・効果・検出」
 異星人の遺跡に入り込んで、何の用途だかわからないものをかっぱらってきたジェイクとコーパス。かつて同じ遺跡の盗品を作動させたやつが白い煙とともにミイラになったという事件があり、作動させるのにもためらいがある。二人は掛け合い漫才の末にそれは無意識にさせる機械ではないかと推測するのだが……。この機械の設定自体が背反的であって、それゆえに結果もまた茫洋とせざるを得ないというところが、いかにも。余裕のあるギャグ系の筆致で、スペキュレイティヴ・フィクションの王者の貫録を見せつけている、といったところか。
「請け負った仕事、再現不能」
 考古意識工学の博士コーパスと意識生命医学者のジェイクは、大学からとある命令を受ける。惑星ボゾンの企業から研究者を盗み出してこいというものだった。その研究所に赴いてみると、猫がしゃべるという一回性の、しかし疑うべくもない現象が起きており、その解明が二人に託されたのだが……。オカルティックな現象は、数学的記述に堪えるものでありながら、なおかつ現在の人間の能力では初期条件をそろえられないために再現性がない、という論理が展開されており、実に楽しい。いや、私のような人間にとっては嬉しいというべきか。でもまあ平たく言うと、これは要するに猫はしゃべらない、という話。
「罪な方法、模型・模倣・消去」
キーリン星で、地球に連なるかもしれない貴重な遺跡が発掘された。出土したのは、金属塊だが、どうも危険な殺人マシンらしく、〈星を滅ぼすロボット〉というキーリン星の伝説を思わせるため、保存か廃棄かでもめていた。そこで二人が招かれて危険かどうかの鑑定をすることになった。調査してみると、それは殺人マシンではなく、犯罪モデルを詰め込まれた意識体であるようだった。罪の意識を負わされた悲劇的な存在。コーパスはその意識を消去してやろうとするのだが……。この機械そのものの描写が、非常におもしろい作品である。
「確かな自己、固定・変換・解放」
二人のもとへ現れたのは、どことなく人間離れした美女。彼女の依頼は〈国家〉と名づけられたAI (もちろん発掘品で、本当に〈国家〉なのかも不明)を起動し、自己解体するようにし向けて欲しい、というものだった。一方、発掘管理局からも、〈国家〉のある遺跡でに潜むテロリストを退治してほしいという依頼が舞い込む。勇躍乗り込んだ二人だったが……。固定化された意識と「国家」という概念をアクロバティックに結びつけた、神林ならではの佳品。

現代=異界ものとその他

「六月の花嫁」
 女から別れ話を持ち出され、あまつさえ彼女の婚約者が長岡に持つ土地の調査をして欲しいと依頼された由宇は、しぶしぶその仕事を始める。だが、外から調べているとその場所は存在せず、内側からだとそれはあるのだ。由宇は知らず知らずのうちに奇妙な立場に追い込まれていく。
コンピュータ通信が登場するが、今から見ればもちろんシステムが難しすぎるけれども、その機能については、現在でもまったく通用するような考え方をしていて、さすが、と思う。リアル・ワールド・フィクサー(RWF)という謎の存在も神林らしくておもしろい設定だ。
「七月の誕生石」
 女のためにルビーを盗む。自分の作った警報攪乱装置がどこまで通用するか試すために盗む。そうして男は絶対の自信を持って盗みに入るが、あっけなく逮捕されてしまう。一年半後に出所した彼は、誰か自分をはめた奴がいるはずだと考えて独自に調査を始めるが……。SFミステリ。

「いけない男」
 高高度極超音速機が開発され、多少の金さえあれば月へ気軽に行けるようになった時代、一人の男がそれを忌々しく感じている。折しも月宇宙観光機77便が大気圏突入時に事故を起こす。テロか、それとも?……。ミステリとしては読めない。小説としてもいまいちで、これは大幅な改稿がなされなければ単行本収録は難しかろう。