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建築日誌
■旧前田利為侯爵別荘(鎌倉文学館)■    2004年12月20日

そうだ、鎌倉へ行こう!

曇天の日曜日は、電話も来ないし、スタッフもいない。絶好の仕事日和なのであるが、どうした訳は今日は気が乗らない。こんな日は、そうだ、鎌倉へ行くことにしよう!
このあいだ、駒場にある「前田のお殿様」(ヴェルデさん命名)の洋館を見てきたので、急に鎌倉の別荘が見たくなった。鎌倉文学館として公開されているので、何か展示物も見られるだろう。……

聞きしに勝る名建築である。設計は渡辺栄治。良く知らない。調べが付かないのだ。駒場の本宅は高橋貞太郎の設計で、のちに超メジャーになった人物。それと比べれば、なんとも解せない。おかしい。そうか、分かった! 地元だなぁ~。小生には、ピンと来るものがある。
鎌倉の別荘が昭和11年の竣工。駒場の洋館が昭和4年の竣工である。
駒場の方は、イギリスチューダー様式(?)に則った、本格的建築であるのに対して、その後に建てられた鎌倉の別荘は、なんとも怪しげな擬洋風なのだ。
ハーフ・チンバーかと思いきや、そうでもない。切妻屋根は、母屋を見せ、破風を使わず、深い軒先の純和風でる。一方、多角形の平面プランに、せり出した変形バルコニー。チューダー風の円形アーチに、アールデコ調の円形窓。そして、怪しげなデザインのパラペット。……
これぞ、擬洋風の傑作である。別荘建築の名作といっても良い。

前田のお殿様は、余程の通人だったに違いない。本格を真似ることは出来たはずなのに、そんなものは一度でたくさんだ。別荘くらい遊んでやろう。……と、思ったかどうかは分からないが、随所に遊び感覚が見て取れる。もっとも、設計者は渾身の知恵を絞ったに違いないが、施工は竹中工務店。まあ、余程のことがない限り安心と言う訳だ。いやはや、前田のお殿様はかなりの通人である。

室内は、撮影が許可されなかった。それなりに混んでいたし、あきらめることにした。ただ一つ、気にかかることがあった。バルコニーの床にガラスブロックを使っていたことだ。はて、当時からこんなことをしていたのか? まさか? これは、要調査である。
外に出ると、かなり広い芝庭が続く。イギリス風である。バラ園があったが、一輪も咲いていなかった。当たり前である。「あたり前田のクラッカー」昔、こんなCMがあったのを思い出す。
戦後、佐藤栄作の別荘として使われたらしい。三島由紀夫の「春の雪」のモデルにもなった。春と秋にはバラが咲く。次は、春にでも来ることにしよう。


旧前田利為侯爵別荘 
旧前田利為侯爵別荘・外観1

旧前田利為侯爵別荘
外観2

旧前田利為侯爵別荘
 外観3