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建築日誌
■うだつが上がらない! ■    2005年01月20日

函館は大火のメッカである。

函館沖で沈没した洞爺丸の事故が、かのタイタニック事故に次ぐ世界で二番目の海難事故であることは意外と知られていない。そういえば「虚無への供物」はここから始まるんだったっけ。……
それはさておき、函館は日本でも有数な大火都市なのである。(誰かさん、コンクリと関連していますよ)
明治40年の大火では、焼失戸数12,000戸以上。啄木はこの年に函館へやってきて、火事のためすぐに札幌へ逃げた。いや、借金のため逃げたという証言もあるが。(笑)
特にひどかったのが、昭和9年の大火である。川には熱さを逃れるために入水した方の死体でうじゃうじゃしていたという。また、天皇の御影を抱きながら亡くなっていたひとも。……この話は何度も何度も親から聞かされている。焼失戸数24,000戸以上。死者、行方不明者2,600人以上。相当な被害である。

そうそう、「うだつ」であった。関係なさそうだが、実は火事と大いに関係がある。
「うだつ」(うだち)は建築用語で大きく二つの意味がある。一つは小屋梁の上に立つ小さな柱のこと。正式には小屋束といいます。(って、誰に教えてるんだろう……)
もう一つは、隣家からの延焼を防ぐ「そで壁」のこと。張り出した壁の上に小さな屋根が付いている。今で言う、スパンドレル。いや、ここまで覚えなくてもいいです。(笑)
「うだつが上がらない」とは、小屋束のように、押し付けられて頭が上がらないとか、また、防火壁は立派な屋敷にしか許されなかったので、出世しないことなどを意味する。(矢田洋先生著「建築用語漫歩」を分かりやすく解説。ちなみに、矢田洋は、ヤダヨーと読む)

そこで、「旧西浜旅館」。ミートハウスと言う看板が見られるが、どうやら肉屋ではなさそうだ。
明治40年竣工。これも、典型的な洋風町屋建築である。
ただし、立派にうだつが上がっているのが特徴である。見事なのもである。
このうだつは、レンガ造のように見えるが、実は木骨レンガ造といって、木造の骨組みにレンガを張っている構造である。タイルの代わりに、レンガを使ったと思えば分かりやすい。そのほうが、隣り合わせの木造と連結しやすいからであろう。と、思われる。でも、確証はない。

函館は、前述のごとく、多くの大火に見舞われた都市であった。そのため、建物には古くから防火構造が採用されてきた。土蔵造り→レンガ造→補強コンクリートブロック造→鉄筋コンクリート造と、近代的耐火構造変遷のモデル都市でもある。単なる西洋かぶれでコンクリートを採用してきたわけではないのだ。(笑)
でも、このうだつが上がっている建物は、今ではそう多く残っていない。「ミートハウス」は大変に貴重な存在である。と、小生は思うのだが、学術的評価はまた別である。いや、そんなことはどうでもいい。

写真を良く見ると、うだつの下は斜めに切り込んである。人がスムースに通れるように工夫されているのだ。でも、その分防火性能は落ちるに決まっている。……はて、どうしてだろう? 建物の主は、うだつは上がっても、隣家には頭が上がらなかったとでも言うのだろうか?

旧西浜旅館 
旧西浜旅館・外観 1


旧西浜旅館
外観 2

旧西浜旅館 
外観 3