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建築日誌
■鳩山会館(旧鳩山一郎邸)■    2005年04月04日

政治家の自邸を担当するにあたり、設計者の岡田信一郎はさぞかし頭を抱えたに違いない。
ましてや、将来総理大臣ともなる大物政治家の自邸である。
いくら親友関係にあるとはいえ、建築家よりも政治家のほうが偉いに決まっている。
設計料はふんだんに貰えるだろうが、その分下手なものは設計できない。
えっ! 有名建築家が設計するのだから、下手なものを造るわけがない……?
いやいやそんなことはない。
この手のクライアントが相手の場合、建物は往々にして変なものになり勝ちなのである。(笑)

大正13年(1924)竣工。RC造、地下1F・地上2F建て。
外壁は、腰壁が砂岩こぶだし仕上げ石積み。1階はハツリ出し風種石入り洗い出し仕上げ。
2階は、磁気質小口タイル張り。
屋根は、木下地の上に緑青銅板瓦棒葺きである。

岡田信一郎は、歌舞伎座や明治生命館などを手掛けた大正・昭和初期における建築界のリーダー的存在である。
西欧様式のみならず、帝冠様式もでも自在にこなす、実に「器用」な建築家でもあった。
弁舌も達者で、筆も立ち、スキャンダルも少なくない。
お堅い仕事とは裏腹に、名妓と結婚するなど、巷では「口八丁手八丁の鬼才」とまで言われた。
スター建築家の走りでもある。建築界のサルヴァドール・ダリ。
黒川先生や安藤先生などは、この系列の正当な継承者と考えて間違いない。(笑)

そんな岡田が、鳩山一郎の自邸を設計するというわけである。
面白くないはずがない。別名、音羽御殿。
鳩山一郎が唱える「友愛」の精神に満ち、政財界の要人が事あるごとに集まった(笑)歴史的名建築である。
歴史は夜創られる。いや、政治も夜作られる。
とにかく自由民主党は、この「音羽御殿」から作られたのだ。

どういったらいいのだろうか? 名状し難い不可思議なデザインである。
ダサくはない。むしろ「素敵」である。
しかし、どうも腑に落ちない。
全体的には、バラ園に囲まれたイギリス風の外観を呈した建築物である。これといって、特定の様式美にはこだわらない政治家らしい寛容性。
とは言うものの、自分のこだわりには極端にうるさいシンボリックな美的センス。
3つもあるドーマーウインドウと、軒先に鎮座する4体のふくろう。(なぜ4つなのだろう?)
車寄せ上のバルコン壁にある、鹿の首とそれに背を向けた形で羽ばたく一対の鳩。(うーむ)
階段室の壁を飾る鳩と塔と山が美しい日本風なステンドグラス。(ああ!)

ここには、建築家のスタイルなどというものは存在しない。
むしろ、クライアントさえ好んでくれれば、建築家はいつだって自分を捨てられるものだと声高に語っている。
口八丁手八丁。
これぞ、岡田信一郎の代表作である。

注:当会館からは、貴重な修復関連の資料をいただきました。記して御礼申し上げます。


バラ園からの眺望 
バラ園からの眺望

車寄せ外観  
車寄せ外観

素敵な鹿と鳩の装飾 
素敵な鹿と鳩の装飾

明るい英国風サンルーム
明るい英国風サンルーム

鏡を駆使したF大広間
鏡を駆使したF大広間

鳩と塔と山をモチーフにしたステンドグラス
鳩と塔と山をモチーフにしたステンドグラス