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建築日誌
■旧古河邸■    2005年05月27日

コンドルの作品の中でも、この古河邸はちょっと毛色が変わっている。
何度も言っているが、コンドルと言えばゴシックである。
いや、ゴシックを基調とした、様々な様式のエッセンスを混淆した「折衷様式」である。
デペイズマン、コラージュ、もしくは異種格闘技。
しかも、洋の東西を問わない、世界選手権である。

しかし、この古河邸はさほど異種格闘技性が見られない。
代わりに「和」のテイストをふんだんに取り組んでいる。
面白い。さすがにコンドル先生である。
いや、待てよ、これは本当にコンドル先生が設計したのであろうか?

大正6年(1917)竣工。RC造、もしくは石造、もしくは組石造。
面白いことに、資料によって構造の表現はまちまちである。
外壁は、真鶴産の安山岩(小松石)の野面積みで、屋根は天然スレート葺。かなり濃い安山岩の岩肌と、急勾配の切妻屋根がコッテージ風の様相をかもし出している。
残念ながら内部の写真は撮れなかった。1Fは全体的に洋風であるが、2Fは打って変わって和風のスタイルである。
しかも、かなり時代がかった和風。これ以上、どう表現していいのか分からない。
コンドル先生65歳の作品である。翌々年、コンドルは67歳で妻の死を追うようにして亡くなっている。最晩年の作品である。コンドル先生自らがどれほど関わっていたのか、やはり疑問が残る。

それにしても、この建物の外観は実に面白い。
シンメトリーのようで、シンメトリーでない。
各方向、同じモチーフを用いながらも実に変化に富んでいる。
コンドル先生お得意のバルコニーも見当たらない。
煙突、ドーマー、バラストレード、よろい戸と洋風のアイテムを用いながらも、どことなく不調和である。やはりこれは、コンドルではない。(笑)

とりわけ、切妻屋根の破風板の形に注目したい。
軒先が上へと反りあがったデザインである。和風建築特有の、緩やかな反りである。
同じ切妻を用いた岩崎家撞球室の屋根と見比べれば、一目瞭然とその違いが分かるはずである。
ヘルン先生とまではいないが(いや、どっこいどっこいか?)、日本を愛したコンドル先生の忘れ形見である。

ちなみに、旧古河邸は、洋風・和風の両庭園で有名である。
建て主は、古河家三代当主の古河虎之助。
岩崎家や三井倶楽部のなどの実績のあったコンドルに、洋館の設計を依頼した。(正確にはコンドルの事務所)
洋風庭園は、同じくコンドルの設計。
和風の方は小川治兵衛。
1千坪にもなる庭園を鑑賞するだけでも、充分満足がいく。


旧古河邸 
洋風庭園から望む外観

芝生側から見た概観  
芝生側から見た概観

中央部拡大 
中央部拡大(反りのある破風)