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建築日誌
■臨春閣(山渓園)■    2005年11月24日

「数寄を凝らす」とは言うものの「数寄屋」と「数寄屋造」とではその意味がまったく違う。
「数寄屋」とは、そのそも本屋から離れた茶室のことを言う。
これは、室町時代後期からすでにあったとされ、有名な利休ゆかりの『待庵』(桃山頃)などは草庵茶室の原理に満たされた「数寄屋」の代表格である。

一方「数寄屋造」とは、江戸時代以降に流行したもので、書院造をベースにして草庵茶室風(ここ、テストに出るぞ!)の趣を加えた住宅建築のことである。(旅籠や料亭などに拡大していった)
つまり「数寄を凝らす」とは、わざわざ格調高い書院造に、金持ちが好き好んで、みすぼらしい草庵調のテイストを加えていくことなのである。
道楽である。流行りものである。
今日で言えば、綺麗なジーンズにわざと穴を開け、ボロボロの汚い格好を良しとする「理解できない」流行なのである。
若者は数寄者である。
そうだ! これから小生は、若者のことを「数寄者」と呼ぶことにする。(笑)

臨春閣。(山渓園内)
関東有数の優れた数寄屋造である。
江戸前-慶安2年(1649)頃の竣工。
元々、紀州徳川家初代の頼宣が、和歌山の紀ノ川沿いに建てた別邸(巌出御殿)であったとされる。
回りまわって(すいません、途中面倒なので)原さんの山渓園に移築されたのが大正6年。
臨春閣と命名される。重要文化財。

川沿いに建てられたことを再現するために、ここでも池を造った。
雁行した平面プランは、桂離宮の回遊式庭園を思わせる。
屋根はシコロ葺といって、二段階に葺かれた洒落たものである。

内部は、探幽などの襖絵で飾られているという。
でも、どれが探幽だか分からない。(笑)
琴棋書画の間には、火頭口(かとうぐち)をくぐる直角の階段がある。
我が尊敬する故・小林文次先生の『日本建築図集』に、この火頭口だけの写真が載っていた。
二十何年もの前から所有する本であるが、そうかぁ、ここだったのかぁ~、と感極まる。(笑)

天楽の間の欄間には、なにやら面白いものが飾ってある。
「忘れ傘」か? と一瞬思ったが、本物の笙の笛であった。
そうだよね、こんなところに傘なんか忘れるはずがない。(笑)
それにしてもドッキリが利いている。
おっと危ない!
何気なくさわった手水鉢は、秀吉ゆかりの瓢箪文手水鉢だとされている。
ふむふむ。
数寄を凝らすのもいいけれど、こんなに贅沢品に囲まれては、肩が凝って仕方がない。(笑)

臨春閣(山渓園) 
臨春閣(山渓園)・全景

内観
内観

内観(火頭口) 
内観(火頭口)

内観(笙の笛) 
内観(笙の笛)

外観 
外観

瓢箪文手水鉢 
瓢箪文手水鉢