Isidora’s Page
建築日誌
■神奈川県庁本庁舎■    2006年11月11日

横浜三塔物語、続編です。
キング・クイーン・ジャック、この三塔を回れば幸せになれるという。
ありがたい話である。
まるで観音さま巡りである。
しかも、たった三塔巡るだけで幸せになれるなんて……
わくわくしながらジャック、キングと続いたが、よくよくパンフレットを読み返すと、どうも話が違う。
そう、正確にはこの三塔が同時に見える場所を(三つあるらしい)、全部回らなければならないというものだ。
早く言ってよ~(泣)
そうだよねぇ~。
幸せなんてそんなに楽に手に入るものじゃない。(笑)
ちなみに、お手てのしわとしわを合わせれば「しわわせ」になれます。
南無~!

それにしても、なぜにキング・クイーン・ジャックと続いて、ハートがないのだろう?
「ハートは、三塔を巡ったあなたの心の中に……」
なんて、臭い設定でもされているのだろうか?(笑)
まあ、それはさておき、キングの塔である。
一番偉い、王様の塔である。
王様は、帝国ニッポンの冠をかぶっている。
これすなわち、泣く子も黙る帝冠様式建築という。

竣工は昭和3年(1928)。
施工は大林組。
SRC造5F建て、B1階。
設計は大正15年に行われた公開コンペ一等案の小尾嘉郎(おび かろう)である。
これに、佐野利器を顧問として、神奈川県内務部で実際の設計が行われた。
何はともあれこの建物は小尾の代表作であり、墓石にまでこのキングの塔がデザインされている。(笑)

西洋風の近代建築に、どっかりと日本風の瓦屋根が載る。
これが、我が国を代表とする誇り高き帝冠様式建築なのである。(笑)
日本が、右へ右へと傾く中で、ナショナリズムの台頭として持ち上げられたもの。
神奈川県庁本庁舎は、その先駆となった建物である。
以後、軍靴の響く音とともに、日本はゾクゾクとこの異様なデザインで埋め尽くされるんだなぁ~。(笑)

しかし、もともとこの帝冠様式を始めに提唱したのは、下田菊太郎という建築家なのである。
知らない人が多い。
建築界のアウトローである。(笑)
彼は大正8年発表の帝国議会建築コンペ案が、単なるルネサンス様式であったことに激怒した。(いや、勝手に激怒しただけです)
帝国議会がこれではいけない!
そこで「純正なる古典式の上に、帝位を表徴すべき日本の宮殿」として、この恐れ多い帝冠様式の議事堂を提案したのだ。
そして、笑われた。
みんなに笑われた。
みんなにカラカラ、カラカラ笑われた。(笑)
下田は大変な屈辱を受けたが、数年も経たない内に彼の提案は右肩上がりの人々に持ち上げられた。
そして帝冠様式は一気に流行した。
しかし、下田の名を知るものは誰もいなかった。……(プロジェクトX風に/笑)

そういえば、最近「美しい日本」を標榜する右よりな首相が現われたなぁ~。
心持、首も右に傾いているし。(笑)
数年も経てば、日本はまた、この帝冠様式でいっぱいになるかもしれない。(怖っ!)

神奈川県庁本庁舎
神奈川県庁本庁舎・正面

神奈川県庁本庁舎
帝冠様式
神奈川県庁本庁舎
全景

神奈川県庁本庁舎
正面玄関