Isidora’s Page
建築日誌
■伊豆の長八美術館■    2008年08月25日

「花の金曜日」と「ポストモダン」
いつしか、この二つの言葉は死語となった。
金曜日の妻たちも、今では曜日にかかわらず毎日風に吹かれているらしい。(笑)
「ポストモダン」
これは、断じて郵政民営化のことではない!
全国のポストをモダンにするために、丸いポストから四角いポストへと移行することを言う。
……って、もちろん、嘘ですよ。
最近、記事に嘘が多いと読者からのクレームが殺到してます。(笑)

この美術館、なにはともあれ石山修武の名を世界に知らしめた作品である。
ポストモダンを代表する建築物。
作風の転機と言ってもいいだろう。
それまで、コルゲートパイプ中心の個人住宅から、不特定多数の出入りする美術館という、初めての公共建築への挑戦でもあった訳だ。
若気の至り、数々の武勇伝も残している。(笑)
後に、本人はこう述べている。
「無知は途方もないエネルギーを生み出す。恐れを知らぬからだ。」
うう~ん!
この意見には賛成の反対なのだ!!
ん?
バカボンのパパか?(笑)
いや、賛成の賛成、大賛成なのだ!!
宗男の大好きな「擬洋風建築」も、正にこの境地に立った者にしか成し遂げられない、計り知れないエネルギーの爆発がある。
どうです、このフォルム。
どことなく擬洋風を意識していると思いませんか?(笑)
そうなんです。
石山はあえて機能主義的表現を避けて、懐古的な、手造りの持つ、職人気質的な「ぎこちなさ」を表現したのである!
と、宗男は勝手に解釈しております。(笑)

伊豆の長八美術館。
SRC造、RC造。
地上2F建て。
竣工は昭和59年(1984)。
設計:石山修武(いしやま おさむ)。
施工:竹中工務店。
左官工事:日本左官業組合連合会。

むろん、この建物の主役は設計者の石山修武ではない。
主役はその名のとおり、「伊豆の長八」こと、入江長八である。
入江長八(1815~1889)。
江戸末期から明治中期にかけて活躍した、稀代の左官職人。
「鏝絵(こてえ)」の発案者で第一人者だけに、鏝々(こってこて)の伊豆っ子である。(笑)
ちなみに鏝絵とは、漆喰を鏝で盛り上げてレリーフ状に仕上たものをいう。
松崎に生まれ、左官の神様とまで崇められた長八。
その腕の良さは天下一品で、狩野派の喜多武清に師事したことからもデッサン力の素晴らしさがうかがわれる。
鏝絵だけではなく、日本画、襖絵、彫刻と何でもこなした。
いわば日本のミケランジェロみたいな存在!
と、地元では言ってました。(笑)
いや、本当にすごいんです。
今回、さまざまな長八作品を鑑賞して、改めて長八のすごさに驚嘆した。
この美術館は、彼の偉業を記念すると同時に、鏝絵と漆喰芸術の普及を目的に建てられたもの。
世界広しといえども、漆喰芸術専門の美術館は、この不便で遠い西伊豆の松崎町にしか存在しない。(笑)

左官の神様の殿堂だけあって、美術館の建設にあたっては全国から腕自慢の左官職人が二千人規模で集まったという。
元締めは日本左官業組合連合会の杉山三郎会長。(当時)
内外装ともに左官工事は別途発注され、設計者の石山でさえ左官工事にだけは口出しできなかったらしい。(笑)
アプローチから中庭に至る両側の壁には、少し黄色がかった土佐高知の「土佐漆喰」が再現された。
これは、マンゴーでいえば宮崎産に匹敵するくらいの漆喰中の漆喰、幻の漆喰なのである。(笑)
加えて、松崎ではおなじみのなまこ壁。
このコントラストは、実に見事である!
また、円形ドームの天井には見事な「天女」の現代アートが……!?
この天女、はじめは大きな「龍」を設置する予定であった。
口出しのできない石山が、これだけは嫌いでなんとか「天女」にしてくれと杉山会長に頼んだもの。
しか~し!
後になって石山は、「やっぱり龍の方が良かった」と後悔している。(笑)

美術館に入ってチケットを買うと、まず驚かされるのは「あるもの」を手渡されること。
さて、「あるもの」とはなんでしょう?
ん~?
左官の鏝?
長八のバッジ?
いやいや、答えは大きな虫めがねを渡されるんです。
これで、存分に目を近づけて鏝絵を見ろ! と言うわけだ。(笑)
おまけにいくらでも写真を撮っていいという。
そうだ!
そうこなくっちゃ!
わざわざ伊豆へ来た甲斐がない。(いや、甲斐じゃなくて伊豆ですが)
このあたりに、鏝々(こってこて)の伊豆っ子の心意気がうかがわれるなぁ~。
まあ、ガラスに反射して写真どころではないのですが。(笑)
以下、鑑賞に堪えられそうなものをいくつかUPしますので、モニターに虫めがねを近づけて存分にご覧ください。(笑)

長八美術館 ホーロクの静御前(長八作)

長八美術館 シャッターを上げる女、いや春暁の図(長八作)

長八美術館 別名「ほうら、見でけろっ!」(長八作)

長八美術館タイトル失念、襖絵(長八作)

長八美術館
百福神 恵比寿・大黒・おたふく(長八作)

【所在地】静岡県賀茂郡松崎町松崎23 グーグルマップ


長八美術館 

長八美術館

長八美術館

長八美術館

長八美術館

長八美術館 

長八美術館
土佐漆喰となまこ壁

長八美術館
華麗なる天女

長八美術館
おまけ(なまこ壁の構造)

長八美術館