Isidora’s Page
古雛の家

       ●今年買った本●           2002年12月20日

 今年買って読んで、一読者として(評論家として使えそう、というような本は除いて)、金も時間も無駄にはならなかった、と思う本を挙げておきます。中にはいただいた本もありますが、自分でも買ったろう、という本です。値段と内容とを考えておりますので、文庫は採点が甘くなり、高価な本については辛くなります。読者の皆さんが買って損をしたと思うかどうかについては、責任を持ちませんので、悪しからず。
 ちなみに私は出版人なので、新刊で入手可能なものは、なるべく新刊書店で購入するようにしております。最近、古書はほとんど買いません。

ファンタジー
●浜たかや『太陽の牙』『火の王誕生』『遠い水の伝説』『風、草原を走る』『月の巫女』(偕成社)
 かなり以前に出た本の再刊。これは『幻想作家名鑑』を作るまで存在を知らなかったもので、ちょっと中途半端であることは否めないものの、もう少し評価されても良いシリーズではないかと思う。
●ウィリアム・モリス『不思議なみずうみの島』(斎藤兆史訳・晶文社)
 ちょっと高いか……。
●ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『魔女と暮らせば』(田中薫子訳・徳間書店)『トニーノの歌う魔法』(野口絵美訳・徳間書店)
 ファンタジー好きの長男はこのシリーズが好きではない。女の子、いや、おばさん受けする作品かも、とは思う。
●フィリップ・プルマン『琥珀の望遠鏡』(大久保寛訳・新潮社)
 三分冊の長篇なので、全部読んでね。
●スーザン・プライス『エルフギフト』(金原瑞人訳・ポプラ社)
 暗い。またいささか難解。しかしすごい。
●ケビン・クロスリイ=ホランド『二人のアーサー』(ソニー・マガジンズ)
 続刊が出るように祈っているが……。こんな少年いるわけないよと思いつつも、つい読んでしまう。
●ガース・ニクス『サブリエル』(原田勝訳・主婦の友社)
 軽エンターテインメントなので、本当はちょっと高い、と思う。でも、今のファンタジーの高値は、仕方のないことだとも諦め気味。
●バリー・ヒューガード『鳥姫伝』(和爾桃子訳・ハヤカワ文庫FT)
 こういうテイストは好み。基本はミステリ。(編集部から頂戴しました。)
●エリザベス・ヘイドン『プロフェシイ 大地の子』(岩原明子訳・ハヤカワ文庫FT)
 解説を書いたので、本が貰えなくても(もちろん、編集部から頂戴しましたよ)買っただろう……。早く次を出してね。
●ニール・ゲイマン『ネバーウェア』(柳下毅一郎訳・インターブックス)
 これも趣味。刊行当時、どうして読んでいないのか? ホラーにまかせたのかな。
●ヒュー・ロフティング『ガブガブの本』(南條竹則訳・国書刊行会)
●福永令三『クレヨン王国道草物語』(講談社青い鳥文庫)
 この二冊はシリーズのファン向け。読めれば何でも良いのである。

主流文学
●古川日出男『アラビアの夜の種族』
(角川書店)
 これはSFでもミステリでもないからね!
●津原泰水『少年トレチア』(講談社)
 ホラーが嫌いな人も読んでね。
●皆川博子『冬の旅人』(講談社)
 これは好き嫌いがありそう。私には納得できる世界だった。
●大泉康雄『テロルの遁走曲』(ラインブックス)
 素人っぽい作品だが、おもしろく読んだ。
●篠田真由美『幻想建築術』(祥伝社)
 『幻想文学』連載作品なので、読んだっていうか……。買ってね。
●ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』(岸本佐知子訳・国書刊行会)
 実に楽しく読んだ。特におもしろいところを朗読したら、子供にも受けた。翻訳も良かったと思う。
●ジョゼ・サラマーゴ『修道院回想録』(谷口伊兵衛訳・而立書房)
 歴史伝奇の好きな人にはきっとおもしろい。空飛ぶ機械の話。
●ロベルト・シュナイダー『眠りの兄弟』(鈴木将史訳・三修社)
 これは変なものが好きな人向け。すごく変。
●イルゼ・アイヒンガー『縛られた男』(眞道杉・田中まり訳・同学社)
 これも読者を選ぶ。
●ナーズム・ハクメッド『フェルハドとシリン』(石井啓一郎訳・慧文社)
 あまりにも高いので、好みの作品だが、人に勧める気にはなれない。

SF
●ニール・スティーヴンスン『ダイヤモンド・エイジ』(日暮雅通訳・早川書房)
 いまいちという気もするが、損した感じはない。SFファンにはまずおもしろい作品だろうと思う。著者のその他の作品と比べたら、ずっと良い。
●コニー・ウィリス『航路』(大森望訳・ソニーマガジンズ)
 SF色は例によって薄い。しかし上手い。本当に上手い。上質のエンターテインメント。翻訳もなめらかだった。
●フランク・ハーバート『鞭打たれる星』『ドサディ実験星』(岡部宏之訳・創元SF文庫)
 古くて済みません。こういうものを読むと、SFだなあと思う。こういうSFが好みなんだ。
●秋山完『天象儀の星』(ソノラマ文庫)
 趣味。
●牧野修『傀儡后』(早川書房)
 後半の展開がいまいちだと思うが、著者らしい作品ではある。
●北野勇作『どーなつ』(早川書房)
 やっぱり趣味。構成が複雑で万人向けではない、と思ったが、《ファウンデーション》の好きな次男も好きだと言っているので、もしかするとオーソドックスなSFファン好みの作品かも。
●小林泰三『海を見た人』(早川書房)
 これはハードSFファン向け。もしくはセンチメンタルな物語が好きな人向け。
●飛浩隆『グラン・ヴァカンス』(早川書房)
 傑作だとはまったく思わないのだが、ある種の熱心さに感動を覚える。長く楽しめたし。
●冲方丁『微睡みのセフィロト』(徳間デュアル文庫)
 軽いエンターテインメントだが、愉しく読んだ。この著者を以前から結構買っている。
●神林長平『ラーゼフォン』(メディアファクトリー)
 読めれば幸せではあるが、短くて物足りない。すぐに読み終わってしまう……。
●池上永一『夏化粧』(文藝春秋)
 物語としては申し分はないが、著者らしい過剰さにはやや欠けている点が、個人的にはいまいち。たぶん世間一般の評価はこのくらいの方が良いだろう。直木賞取って欲しい。

怪奇
●『M・R・ジェイムズ怪談全集』(紀田順一郎訳・創元推理文庫)
 わざわざ挙げるのはやっぱりバカみたい。
●稲生平太郎『アクアリウムの夜』(角川スニーカー文庫)
 上に同じ。でも、もしも読んでいない人がいたら、とにかく買って読んでね。
●牧野修『だからドロシー帰っておいで』(角川ホラー文庫)
 ラストの展開は前段までとちょっと矛盾すると思ったが、かなりおもしろく読んだ。著者の本は、ゲームのノヴェライズまで全部読んでいるはずだが、長篇の中ではいちばん好きかも。
●パトリック・レドモンド『靈応ゲーム』(広瀬順弘訳・早川書房)
 暗い。こういう話は好み。
●ピーター・ストラウブ『シャドウランド』(大滝啓裕訳・創元推理文庫)
 暗い。切ない。こういう話は好み。
●《江戸の伝奇小説》1・3(須永朝彦訳・国書刊行会)
 当然でしょう。二者を比べれば、やはり京伝の方がすぐれている。
●加門七海『環蛇銭』(講談社)
 ホラー評論家の東は、比較すれば『常世桜』の方が著者の美質がよく表れている傑れた作品だというが、私はこっちの方がよいと思う。

ミステリ
●ロバート・ゴダード『永遠に去りぬ』(伏見威蕃訳・創元推理文庫)
 話としてはたいしたことない。しかし好みに合う。
●『日影丈吉全集』1・6(国書刊行会)
 あまりにも高価である。しかし、私は稲生平太郎フリークとして、これはやっぱり買うほかないだろう……。通常の古書価を考えれば、6はそれほど高くは感じないかも。

ノンフィクション
●小熊英治『単一民族神話の起源』(新曜社)
 評判の良い本で、なるほど、と思う。後に著者の写真を見て、カッコイイのに驚いた……。
●栗原成郎『ロシア異界幻想』(岩波新書)
 おもしろく読んだ。
●五十嵐太郎『近代の神々と建築』(廣済堂出版)
 講談社現代新書よりこっちが良かった。
●ロバート・レヴィーン『あなたはどれだけ待てますか』(忠平美幸訳・草思社)
 時間にルーズなので、こういう本は言い訳用になるなと思う。
●小池壮彦『四谷怪談』(学研)
 こういう細かい調査が著者の最も良いところだと思う。
●川上洋一『クルド人――もうひとつの中東問題』(集英社新書)
 チェチェンについてもこういう本が欲しい!「はるかなるクルディスタン」はあまりにも暗そうなので、観るのをやめてしまった。
●斎藤美奈子『紅一点論』(ちくま文庫)
 おもしろかった。
●田中伸尚『靖国の戦後史』(岩波新書)
 靖国問題についての基礎。本当は戦前から解説するともっとわかりよいと思う。新書じゃ無理だな。
●戸塚悦朗『日本が知らない戦争責任』(現代人文社)
 無知な自分が情けなくなった。
●倉橋正直『日本の阿片王』(共栄書房)
 知らないことが多く、勉強になった。
●千田善『なぜ戦争は終わらないか』(みすず書房)
 ユーゴ問題を中心にした世界情勢の本。これはとても分かりやすい本なので、著者の言う通り、国連の仕事に興味のある大学生、緒方貞子さんに憧れている高校生などに読んで欲しい。
●若桑みどり『皇后の肖像』(筑摩書房)
 著者の怒りに圧倒された。
●角田忠信『日本人の脳』(大修館書店)
 これは連れ合いから借りて読んだ。で、どうして外国語の聞き取りについての調査が無いんだろうねえという話になった。
●多田智満子『犬隠しの庭』(平凡社)