17日、打合せの帰りに駒場公園へ立ち寄った。
この公園は、特に遊園施設があるわけでもなく、だだっ広い芝生と、ところどころにベンチが置いてあるだけの、イギリス風の質素な公園である。
イギリス風の公園などと書いては見たが、小生はイギリスなど一度も行ったことはない。ただ、そう感じただけのことである。(笑)
しかし、駒場公園にはメイン施設が3つある。その一つがこの「旧前田侯爵邸洋館」である。
乱歩の「押絵と旅する男」の中に「浅草の十二階」が登場する。作中、十二階の設計はイタリーの技師・バルトンであると説明されているが、実はバルトンはイギリス人である。
バルトンは、東大の土木技師である。土木技師と建築家は、似て非なるものである。だから「十二階」はあんなにも奇妙な建物になった。……と、つい、いつもの持論が口に出る。
それはともかく、このバルトンの教え子に塚本靖という近代建築家・第二世代がいる。塚本は、当時建築界の権威であった。「十二階を安全に倒壊させるには、云々……」などと、面白いことを口に出す学者でもある。
この、塚本靖が「旧前田侯爵邸洋館」の設計者である。
というのは、表向きの話であって、実際の設計者はその教え子の高橋貞太郎である。今でいう「丸投げ」に違いないが、建築の世界では影武者は珍しくない。かく言う小生も……と言いたところ頃だが、これ以上はここでは口に出来ない。(笑)
高橋貞太郎は、ライト設計による帝国ホテルの後を設計したことで有名である。また佐野利器(耐震構造学の始祖と呼ばれる)の門下生でもある。どちらも立派な建築界の権威である。
さて、話を「旧前田侯爵邸洋館」に戻したい。
デザインは「イギリス・チューダー様式」を取り入れてある。と、パンフレットには書かれてある。「イギリス・チューダー様式」とは、16世紀前半のイギリス・ゴシック様式のことである。イギリス・ゴシックは「初期イギリス式」「装飾式」「垂直式」「チューダー式」の4つに大別される。そこまで分ける必要があるのか? という疑問もなくはないが、とにかく「旧前田侯爵邸洋館」はチューダー様式を取り入れた名建築なのである。
わが国の「本格的○○様式建築」と銘打たれたものは、ことごとく擬洋風の建築物といって良い。と、これまた持論であるが、権威主義は、とかく「本格」とやらが大好きで、容易に自分が設計した建物を「擬洋風」であるとは認めたくない。
これを裏付ける証拠はいくらでもあるのだが、話がくどくなるので、ここでは割愛したい。
「旧前田侯爵邸洋館」がチューダー様式を取り入れたものであることは、玄関ポーチなどに見られる四心アーチ(扁平アーチ)から推測することが出来る。
しかし、結局それしか見当たらない。
他は、どうしたってゴシック風の建築物には見えないのだ。(笑)
外壁はスクラッチ・タイルという、引っかき傷を付けたようなタイルが貼られている。今ではこれほどまでに見事なスクラッチ・タイルはそう簡単に見られない。
また、マンサード屋根が一部見られ、これは、ゴシック建築ではどうかと思われる代物である。(笑)
「建築は本格でないほうが楽しい」……などと思いつつ、建物の周りを半周してみる。
すると、やはり、そこには、それが存在していた。
そう、見落としてはいけない。翼を生やした一対の幻獣である。 小生はこれが見たかったのだ。
外観1
外観2
外観3
幻獣の片方