■旧諸戸邸洋館■ 2004年12月20日
実は、鎌倉行きの本命はこちらである。
「旧前田利為侯爵別荘」のすぐ近くにある。探すのに少々てこずった。資料では「長谷こども会館」として開館しているということだったが、閉館されていた。猫の子一匹もいない。まして、子供の姿などまったく見えない。ぴしゃりと門が閉まい、中へは一歩も入れない。歴史的保存建築物も、使われないと痛むのが早いものだ。
明治44年の竣工である。かなり古い。設計者、施工者、ともに不詳である。明治41年に株で大もうけをした、福島浪蔵氏によって建てられたという。かなり、センスのいい成金である。
写真では良く見えないが、木造の平屋が隣接している。当時流行の、和洋混合建築である。「洋」は金持ちの象徴であった。しかしながら「住」を営むには、まだまだ「和」に頼らざるを得ない。そんな時代のことである。
何度も何度もしつこいようだが、小生は擬洋風が大好きである。本格的な洋風建築などは好まない。いや、日本の洋風建築は、ことごとく擬洋風建築である。これが小生の持論である。
この建物のすごいところは、まずギリシャ神殿風のファサードを「見てください」と言わんばかりに、全面的に主張したことである。2Fの柱頭は、イオニア式風のデザインである。(写真では良く見えない)1Fはドリス式のようだが、なんとも不可解なメダイヨンが取り付いている。良く見ると、エンタシスといって、柱がふっくらと膨らんである。これは、なかなか本格的だ。ギリシャ神殿と、法隆寺と唐招提寺と旧諸戸邸洋館だけでの特徴である。(笑)
とりわけ感心するのが、Rを描いたバルコニーである。珍しい。これは本当に珍しいものである。
元来、木造で曲線を作るのは面倒なので、田舎の擬洋風などはたいてい簡略化されているのだ。元々、ギリシャにも無いRを使うことは、権力の誇示としか考えられない。手摺も曲線を使わなければならなく、コストの面でも相当割高になる。
ここでは見事にそれが成功している。素晴らしい! カッコいいのである。緑色の額縁と、外壁の漆喰の白とのコントラストがまた素晴らしい。このようなパステル調は、擬洋風ならではの彩色法であろう。
横から見ると、これがまたすこぶる感動的だ。南京下見の外壁である。しかも、水色に着彩されている。屋根は瓦屋根で、こちらは和洋混合である。また、窓のぺディメントは1Fと2Fとでデザインを変え、ルネッサンス風の特徴を備えている。これは本当に只ものではない。
澁澤龍彦の家も南京下見の外壁である。真っ白な外壁である。
昔、幻想文学の「澁澤龍彦スペシャル」で紹介されたことがあった。設計は、有田和夫。小生は、学生時代に彼から製図の授業を受けた。いつも酒を飲んで授業をしていた。とうの昔に故人となっている。懐かしい思い出である。
旧諸戸邸洋館・外観1
外観2
外観3