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建築日誌
■北沢の黒い家■  2005年03月10日

どうやら人は住んでいないらしい。

何度も言っているが、建物は使われないと傷みの進行が早くなる。
これは逆説ではない。
しかし、論理的に説明しろと言われれば確かに困窮する。
だとすると、これは小生の思い過ごしなのか?
そうかも知れない。
と、あっさり両手を挙げてみる。
……最近、どうも疲れているなぁ~。 (笑)

いつも行く、下北沢の喫茶店の近くにそれはある。
誰も目を留めない。
写真を撮っていると、通りがかりの人が訝しげにこちらを見る。と、同時に被写体であるこの建物にも目を向ける。
「なにしているのだろう?……」
大方、そのような疑問を抱いて周りをきょろきょろする。
そして「ま、いっか!」と通り過ぎる。

でも、このような場合だけではない。
中には「どうしたのですか?」と、声をかけてくる人もいる。
「写真を撮っているんです。」
と、ぶっきらぼうにこう答えるとたいていの人は遠ざかる。
何事もシンプルなのが一番である。(笑)

この建物は個人住宅である。
いや、個人住宅で「あった」としたほうが正しいのだろうか。
今は誰も住んでいないようだ。
竣工は昭和4年とあるから、相当に古い建物だ。
木造2F建て。屋根はスレート葺。外壁は南京下見板張り。玄関の切妻がすごくかっこいい!
設計者は不明だが、かなりセンスがいい。
お化粧をし直すと、大変な美人である。まるで中野良子のような美人である。(笑)

当初は、青いペンキが塗られていて屋根は赤かったという。
おしゃれである。
玄関庇を支えるブラケットは、なかなか見事なアールデコ調。半切妻屋根の軒にまで使用している。
玄関庇の真ん中には、昭和初期からのブラケット電球が付いている。横溝正史の映画にでも出てきそうである。
窓は改修されており、アルマイト色のアルミサッシュである。
しかし、コーナー窓風に仕上げられており、デザイン的にも高い水準を見せている。

大きな樹木が印象的だが、正面から見たバランスは一見良くない。玄関も2Fの窓も左側のみに配置されて、右側はめくら壁。そして覆いかぶさるように葉が茂っている。
いやはや、天才的なレイアウトである。
実はこの道路に面したほうが西側で、居室は南側に面して採光をとっているのだ。意図的に西日を避けた設計。
「アンバランスの芸術」
このような賛辞を呈してみたい。
手入れさえしてあれば、北沢でも有数な名建築となるだろう。


ファサード左アングル 
ファサード左アングル

玄関詳細 玄関詳細

右アングル 右アングル