■大赤道儀室(国立天文台)■ 2005年09月21日
「武蔵野の俤は今わずかに入間郡に残れり」
と、独歩は『武蔵野』の冒頭でこう記した。
当時すでに、武蔵野の面影は埼玉の入間郡まで行かなければ見られなかったのであろうか?
すると、ここ三鷹の現在の風景などは、もはや武蔵野というには程遠いものであろう。
独歩はさらにこうも言っている。
「昔の武蔵野は萱原のはてなき光景を以って(中略)、今の武蔵野は林である。」
そう、林なのである。
今では萱原の果てしなき光景よりも、まばらに生えた広葉樹林の光景を以って、武蔵野は武蔵野たる風情を醸し出すのである。
感覚は変わる。時代も変わる。
変わらないのは人の情け、なんて言う奴もいるが、それが一番変わってしまっている。(笑)
国立天文台、ラストの建物。
本当は、まだまだ面白い建物があるのだが、見学コースではないので探険はやめた。
野暮なことをしてはいけない。
現役使用している施設なのだから、利用者には迷惑をかけてはいけない。(と、意外に真面目モード/笑)
竣工は大正15年(1926)である。
設計は、同じく帝国大学営繕課。
3つ目の国登録有形文化財である。
ドーム内の屈折式望遠鏡は、国内最大の口径であると言う。
ここの施設群が素敵なのは、武蔵野の面影を残す疎林に、大正の終わりから昭和の初期にかけて造られた古めかしい建物が、やや距離を保ってひっそりと点在していることである。
そして、どれもこれも機能美に溢れている。
必要以外の最低限のデザインを基調に、ちょっとしたさり気ないお化粧をする。
このコンセプトがいいのである。
清楚である。武蔵野のお嬢さんである。
もんぺを履いて白い割烹着を着て、唇にはやや薄めの紅を注して。……
小生の歳の離れた姉の面影に似ている。
今ではでっぷりと太って……いや、これ以上はやめておこう。(笑)
敷地内には、日当たりのいい開けた場所もあって、いろいろな蝶が飛んでいた。
キチョウ、ツマグロキチョウ、コミスジ、フタスジチョウ、ヒョウモンチョウ、イチモンジセセリ。
でも、一番多かったのがヤブ蚊である。
半ズボンを履いていたため、思いっきりふくらはぎが腫れ上がった。(笑)
大赤道儀室(国立天文台)ドーム見上げ
正面
内観(天井の木材が美しい。でも、ちょっと見「わらじむし」似)
裏面