■伊藤家の呪い(まじない)■ 2005年10月23日
伊藤家住宅。(日本民家園内)
旧所在地は、神奈川県川崎市麻生区金程。
農家(名主の家)
17世紀末期~18世紀初頭。
入母屋、茅葺、1F建て、平入り、重要文化財。
澄江堂先生の『澄江堂雑記』に、大変興味深いまじないの歌が載っている。(「家」と題する章)
「ねるぞ、ねだ、たのむぞ、たる木、夢の間に何ごとあらば起せ、桁梁」
これは、泥棒よけのまじないであるという。
「霜柱、氷の梁に雪の桁、雨のたる木に露の葺き草」
これは、火の用心のまじないである。
芥川の頃にも、すでにこのようなまじないは聞かれないと書いてある。
これは、その時代(の東京)では、すでにこのような形態の住宅構造ではないことを意味している。
「鉄筋コンクリイトの借家住まい……」などという表現も見られるとおり、これら茅葺屋根の面影は、遠い山陰に散在する幻影でしかなかったのである。
と、唐突にまじないの話の出たのには理由がある。(笑)
この伊藤家の住宅(食卓ではない)の大戸口には、きりりとした魚の尻尾が、なにやら意味ありげに鎮座しているからである。
はて、何のまじないであろうか?
薄っぺらなパンフレットを見ると、単に「魔よけ」としか書いていない。
以前、岡本民家園の「長崎家住宅」の項で、「カラスの団扇」が大戸口に飾られてあると書いた。
これは、府中にある大國魂神社の「五穀豊穣」(など)のためのまじないである。
では、魚の尻尾はなんだろう?
時間がなくて調べが付かなかった。(何の時間がないんじゃ)
でも、屋根の棟にシビやシャチが飾られるのは「火よけ」の意味であることから推察して、海の物を飾るのはおそらく「火よけ」のためであろう。
だれか、この魚の尻尾のいわれを知っているお方はいないだろうか?――(内の家の玄関にあるぞ! などという人募集!/笑)
部屋のプランは、三間取りである。
大戸口から入って、左側に「ミソベヤ」。
右が「ヒロマ」で、奥が「デイ」と「ヘヤ」となっている。
これは、広間型の形式に入る。
格子窓は、別名「ししよけ窓」といい、猪や狼から守るため為といわれている。
そうは言われているが、これは子供たちへの説明で、実際は開口部を小さくして、寒さから守っていたものと考えられる。
構造的には「四方下屋造り」と呼ばれるが、これは余りにも専門的になるので、余裕があれば別項で説明したい。
それにしても、ゆうに300年以上もの歴史を持つお屋敷である。
いろいろな出来事を見て来たに違いない。
圧し掛かる屋根の重みは、ちゃらちゃらとした現代建築の軽さには比べようもない。
「昔は良かった」などと、簡単に口にできない小生であった。
「ねるぞ、ねだ、たのむぞ、たる木、梁も聴け、明けの六つには起せ大びき」
これは、朝寝坊をしないおまじないであるらしい。(笑)
伊藤家・外観
大戸口の魚の尻尾
ドマ(ダイドコロ)から見た勝手口