■初音茶屋(山渓園)■ 2005年11月23日
芥川龍之介の作品に『庭』と題した小品がある。
中村という旧家の「庭」を描きながら、中村家そのものの荒廃をパラレルに浮かび上がらせた短篇。
陰鬱で言葉少なに書かれた短篇だが、長篇を読んだかのような読後感に酔わされる、奥行きの深い小説である。
その『庭』の中に、「洗心亭」という四阿(あずまや)が登場する。
栄華を極めるときも、退廃する様を表わすときも、「洗心亭」は常に庭の象徴として描かれている。
さり気ない象徴主義。
こういう小道具の使い方は、芥川の映像感覚の秀逸さを証明するものである。
初音茶屋。
明治39年(1906)の開園当初からあるもの。
茶屋と言うくらいで、麦茶や香煎を出していたらしい。
インドのタゴールや芥川もここで茶を飲んだと記されている。
なお、『庭』の「洗心亭」とは、直接関係ない。
芥川が訪れたのは大正4年の初秋のこと。
ひとはかり うく香煎や 白湯の秋
原さんの長男、善一郎氏への手紙の中に詠まれたもの。
はて? 香煎などというものは、どのようなものなのか?
へらで測り、お湯に投じたものであろうか?
この湯茶接待は、戦争などでいつからか途絶えてしまったらしい。
しかし、昭和57年に湯釜が発見され、観梅会の期間中には昔どおりの麦茶を振舞っているという。
写真では、蓋をした炉のみが写っている。
梅の頃には、再び訪れてみようかと思う。
初音茶屋(山渓園)・全景
裏側
内部
天井見上げ