■旧野口梅吉商店■ 2009年09月08日
☆あたらしき心もとめて
名も知らぬ
街など今日もさまよひて来ぬ
……石川啄木 『一握の砂』 より
さて、函館の続きです。
前回は、あまりにも切ない建物を紹介いたしましたので、今回はがらりと変わって……
ん?
なんかこれも、廃墟っぽくありませんか?
はい、廃屋(ハイオク)でございます。
レギュラーとは違いますので、給油の際はお間違えなく。(笑)
☆
函館は、幻想的な街である。
観光客がにぎわう、エキゾチックな街並みがあるかと思うと、一歩外れると、侘しい、すえた、虚無感すら覚える景観に出会う。
解剖台の上での、ミシンとこうもり傘の出会い……
函館の街は、時間と空間のデペイズマンを体現できる、不可思議な幻想都市なのである。
……って、すいません。
宗男はくセンチメンタルになっております。(笑)
コンチネンタルならヨーロッパ風。
センチメートルなら長さの単位。
いや、だからセンチメンタルなのでございます。
松本伊代のセンチメンタルじゃーにぃ!
なのでございます。(笑)
☆
『旧野口梅吉商店』
竣工は大正2年(1913)。
木造2F建て。
設計、施工は不詳。
☆
函館の擬洋風店舗建築の特徴は、1Fが和式で2Fが洋式と言う、いわゆるハイブリットな和洋折衷様式のことで、これを「洋風町屋建築」ともいいます。
簡単に言うと、猿股の上に背広を着たようなもの。
いや、腰巻の上にブラウスを着たようなもの。
ん?
スカートの下にジャージを履く女子中学生は違いますか?
って、要するに、上下で着ている様式が違うことを言いたいのです。?(笑)
この建物は、もともと米穀店であったので、その様式も米国にならった……
……わけではありませんが、同じ米穀店でも「太刀川家住宅」のような耐火構造とは勝手が違う。
このような木造の建物が、一般的な店舗のなのである。
☆
写真でもわかるように、1Fは「出格子窓」(でごうしまど)を設けた町屋風。
「ねえ、旦那、ちょいとよってらっしゃいよ!」
と、時代劇でお馴染みの、あの「出格子窓」である。
いや、ここはお米を売ってたから、格子から白い手は出ませんよ。(笑)
壁は「真壁」(しんかべ)で、伝統的な和式。
トイレは和式かどうか知りませんが、商売上店舗は洋式よりも和式の方が馴染み易かったのでしょう。
いや、トイレットペーパーは和式より洋式の方がずっと馴染みやすいですと思いますけど。(笑)
野垂木(のだるき)を見せた和風の庇から上が洋式で、ここから一気にデザインが変わる!
「胴蛇腹」(どうじゃばら)と言われる水平の出っ張りを伴い、壁は「大壁」(おおかべ)で「下見板張り」となっています。
しかも、この建物ではその「下見板張り」が、前面と後面都ではデザインが違うのだ。
↑左側が南京下見で、右側がドイツ下見
表から見えるところは「ドイツ下見板張り」という箱目地納まり(写真上柱より右側)。
奥の方は「南京(なんきん)下見板張り」(写真上柱より左側)である。
また、普通のドイツ下見と違ってダブル目地に見えるように水平に溝が掘られている。
これには驚いた。
ドイツの仕業だっ!
って、思わず叫びそうになる。(笑)
この「南京下見」は、「イギリス下見」とも言い、なぜに南京からイギリスへ飛ぶのか定かではないが、とにかくそう呼んでいる。
ちなみに「南京豆」は「イギリス豆」とは呼びません。
「南京錠」も「イギリス錠」とは呼びません。
「宍戸錠」は「エースの錠」と呼びますが、これは幼いコモモさん達には分からないかもしれませんね。(笑)
窓は、縦長の「上げ下げ窓」で、重厚な窓台が付いている。
この「上げ下げ窓」は通称「ギロチン窓」ともいい、首を出して窓を下げると大変なことになる。(笑)
そう、よくマジックでやるあのギロチンと同じだ。
昔は、2Fのギロチン窓で大根を切って、下で買い物かごを持って客がそれを受け止める。
なんていう商売をしていたと婆さんから聞いたが、これは真っ赤なウソなのでご近所に吹聴しないでください。(笑)
☆
軒蛇腹から上は、手の込んだ持ち送り(ブラケット)がとってもハイカラである。
軒天井は「菱(ひし)組み天井」といいます。
これまた手の込んだもので、職人の技が「ひし」と伝わってまいります。(笑)
この天井、隙間があって換気口の代わりなるので、実に環境に優しいエコデザインなのです。
機能性、デザイン性、共に総合評価100点満点のハイブリット建築!
ずいぶん長いあいだ廃屋と化しておりますが、早くレギュラーになれるように誰か手を差し伸べてください。
これほどの名建築をほっておくのはもったいない。
まだまだこの建物は、手直しさえすれば十分に住めるはず。
えっ?
エコ減税になるかって?
いや、それはTVで人気の子供店長に聞いてみてください。(笑)
↑ あっ! トイレは和式ですね!
旧野口梅吉商店・全体像
玄関
1Fが和式で2Fが洋式の擬洋風店舗建築
1Fは「出格子窓」(でごうしまど)を設けた町屋風
左側が南京下見で、右側がドイツ下見
重厚な窓台が付いた縦長の上げ下げ窓
軒天井は「菱(ひし)組み天井」
あっ! トイレは和式ですね!