Isidora’s Page
  週 刊 広 告 論  

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週刊広告論
第15回 「答」 

ソニー/メンズ・ノンノ 2001年8月号 44-45p


   広告は内面をどんどん失っていく。そのことの意味を考えようとしても、途方に暮れるばかりだ。
 今回の広告は、ソニーのイヤホンである。正式にはステレオヘッドホンというのだが、耳に掛ける式の商品なので、どうにもイヤホンにみえる。メインビジュアルは3匹の河童。それぞれが色違いの商品を耳に掛けている。この広告が、「新色登場。キャップを替えて、色で遊べる。」商品特徴をうたうものだからだ。よく見れば、それぞれの河童の髪の色も違っていて、河童がターゲットである若い世代の代替であることがわかる。一見それほど言うべきこともない、美しく、ビジュアルの完成度が高いだけの広告と思う。だがキャッチコピーがその調和を揺さぶる。
「じぶんの色に飽きたヒトに。」
 何か意味ありげなコピーである。普通なら、自分の色を探したり、見つけたり、主張することをすすめるべきところだからだ。じぶんの色に飽きたヒトに、は本来アイデンティティそのものである自分のカラーすら、ちっぽけなイヤホンひとつでたやすく替えることができる時代の気分を表している。
 1987年、やはりソニーで、猿がただウオークマンを聴いているだけのCMがあった。コピーは「音が進化した。ヒトはどうですか」というもの。それから 14年、この広告は猿の問うた質問の答であるように思える。ヒトは進化せず、分裂し、内面を失ったのだ。同じイヤホンをはめた絵だが、猿は音楽を聴いているのに、河童はイヤホンをイヤリングのように見せつけて、ただ目を閉じてあたりの反応を窺っているように見える。あと15年もしたら、ヒトはどんな生き物に表象され、そして何を耳にしているのだろうか。

ソニー
ウァークマン