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週刊広告論
第19回 「正」 

フォスター・プラン/2001年8月12日(日)朝日新聞朝刊22面


  「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る アーネスト・シャクルトン」
MEN WANTED for Hazardous Journey. Small wages, bitter cold, long months of complete darkness, constant danger, safe retern doubtful. Honor and recognition in case of success ミ Ernest Shackieton.
 広告史でもっとも有名なこの求人広告は、1900年、イギリスの南極探検家によるものだ。新聞の片隅の、ほんの小さなスペースに掲載されたにもかかわらず、応募は殺到したという。100年を経た今では、世界中のコピーライターがこの愛想のない文言を暗唱できるだろう。
 この広告が強いのは、職を斡旋するのではなく、むしろボランティアを求める内容にあるのだろう。報酬は僅かな賃金ではなく名誉なのである。コピーライターはこうした広告を前につぶやく。嘘ばかりついて無理矢理商品を買わせるより、こうした切実な、偽りのない広告がつくりたいものだと。しかし、そうだろうか?
 今回取り上げるのは、「国連に公認・登録された国際NGO」が、「アジア・アフリカ・中南米諸国の子どもたちが貧困から抜け出し、生活環境を向上させるための援助活動」を求めるという、極めて正当な論拠を持つ広告である。「先生がいない。校舎はあるが、学校ではない。」という即物的な口調。カメラをじっと見つめる子ども達の写真は、広告としてはオーソドックスなスタイルだとはいえ、その内容が切実なだけに、見過ごすことに罪悪感すら感じてしまう強い力を持っている。だから、この写真がまったく内容と無関係なスナップ写真を流用しているかもしれないなどという疑いは、ほとんど反道徳的な疑念とすら映るに違いない。しかしこうしたメッセージが放つエモーショナルな力は、はたして広告そのものの持つ力をそのまま意味するのだろうか?
 環境保護や動物愛護といった正当なメッセージが広告をイデオロギッシュにしうることを指摘した例として、オーストラリアの「ライターズ&ディレクターズ・アソシエーション」が1991年に製作した意見広告がある。
 片手で犬をぶら下げた写真に、「HERE'S A DEAD DOG. WHERE'S MY AWARD? (ここ、死んだ犬。賞は、どこ?)」というコピー。これは広告賞があまりに動物愛護広告を優遇する状況に対してうたれたものだ。広告の強さとイデオロギーの強さは、別物として考えるべきだというこの広告の主張は、「正しい広告」というジャンルの危険性をも訴えている。1917年の米兵募集のポスター「I WANT YOU FOR U.S. ARMY」を見て欲しい。極論だが、この指さすアンクル・サムの目は、「先生がいない」と訴える子どもの瞳と構造的には同じものなのではないか?

フォスター・プラン
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