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週刊広告論
第8回 「雫」 

トイズファクトリー/2001年5月20日(日)朝日新聞朝刊10面


 石堂さんのHPを訪れるぐらいなのだから、メタミステリーについての説明は不要かもしれない。ミステリーについてのミステリー、その物語が、自分が印刷された活字でできていることを知っているかのような物語。僕はその起源について詳しくは知らないが、第1号ミステリーであるポーの「モルグ街の殺人」がすでにメタミステリーの要素を完備していると、笠井潔が書いていたような気もする。
 それほど根本的なものではないかもしれないが、広告にもメタ広告というものがある。たとえば新聞広告の場合、紙面が焦げていたり、めくれていたり、つまり、自分を広告というよりも紙として扱うようなアイデアが盛り込まれているものである。その極端な例には、広告主の名前が小さな明朝体で打たれているだけで、ある日の朝刊の全広告が真っ白になっている(産経新聞連合企画広告・1996)というものまでがあった。紙面を黒板にたとえたり、カレンダーにたとえたりといったありふれたものまでそのジャンルに加えれば、メタ広告は広告の日常に強く関与し、その原理と深く関係しているのかもしれない。
 今回の広告は、真っ白な紙面に水滴が落ちている、というアイデアでつくられている。ただ濡れているのではない。そこから裏面の新聞記事が透けて見えているのだ。そして水滴の向こうで反転して見える記事は、もちろんその広告内容である、ミスチルのDVDソフトとベストアルバムの発売について書かれている。
 この広告からインパクトよりむしろ、軽い失望あるいは悪意すら感じるのはなぜだろう。わざとらしく垂らされた水滴というギミックが、ミスチルの広告という本来の目的に何の関係も持たないからだろうか。驚きよりも先に、無邪気なレトリックが鼻につくからだろうか。限りなく無に近づこうという意志が、かえってその自意識をむき出しにしてしまっているからか。あるいは、ミスチルのファンへの告知以上の価値がこの広告にはなく、広告としてのアイデンティティがとことん希薄だからだろうか。おそらくそうではない。そうではなく、広告というものが持つその小さな輝きに、メタ広告の粗悪な模造品は相当な痛手を与えるのだ。なんでも物まねするいじめっ子のように、広告のトリックの形式的な反復は、何か陰湿な病のように、じわじわと広告的主体を壊していくのである。

トイズファクトリー
産経新聞連合企画広告