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週刊広告論

第41回 「福」 

福音館文庫/2002年6月14日 朝日新聞朝刊7面


 統計によると日本は新刊本であふれているらしい。そしてデフレとかいいながら街は広告だらけだ。しかしながら広告の世界では「こんなに、「言葉」が待たれている時代は、ない。」(宝島社)というコピーが書かれるほどディスコミュニケーションが嘆かれていて、それは書物の世界も似たようなものではないかと僕は勝手に思っている。そんななか、新しい出版物を宣伝することは、幸福だろうか、不幸だろうか。
 今回取り上げるのは、福音館書店が福音館文庫を創刊する、その告知広告である。福音館といえば子供のための絵本の出版が有名で、福音館文庫も童話を中心にしたラインナップが組まれている。童話だからターゲットは子供だろうと思うが、この広告はそう考えてはいない。
 メインビジュアルは若い女性。大人と子供の中間のような、年齢のあいまいなモデルを起用している。イコンとしての使用なので少しフィルターがかかっていて、輪郭がぼけている。そのほっぺたに、子供が描いた感じの太陽の絵が乗っている。キャッチコピーもクレヨンの手書きで、「おとななんて大きなこどもだ。」。それを受けて「おとなになりたくて読んだ。今、こどもになりたくて読む。」さらにロゴ上のタグラインとして「空想、すくすく」と全5段の小型広告にしてはたくさんのメッセージが盛り込まれている。
 なぜこの広告はメインターゲットであろう子供に対してでなく、こどもになりたい大人に向けられているのだろう。子供は新聞を読まないからと言われてしまえばそれまでだが、この広告の少しねじれた感じは、おそらく照準を無理に別の地点においていることが生んでいると思える。その無理な感じは、コピーにも大きく影を落としていて、「おとななんて大きなこどもだ。」や「空想、すくすく。」というワードと福音館文庫に関心を持つかもしれない大人の実感との間に大きな溝が生じてしまっている。こどもになりたくて読む、というナラティブはまったく抽象的で、つまりこれは、知ってか知らずか広告を成立させるために書かされたコピーになっているのだ。
 この、書かされた感じ、つくらされた感じが受け取られたら、広告はおしまいだと思う。もちろん書物だってそうだろう。まあ、サラリーマンが日々働かなければ食べられないのと同じ原理が広告制作者はもちろん、作家にもあるのだろう。それが書きたいキャパを越えることは容易に想像がつく。その解決方法を考えるつもりは更々ないが、この広告が残念なのは、そうした作品側のインフレーションを比較的回避できていそうな福音館文庫という商品に対して、広告側がその価値を表現できていない点であろう。無意味な表現なら、しない方がましなのだ。
 それにしてもこの「書かされている感じ」はまるで社会病理であるかのように、自分にも襲いかかってくる。書く仕事を辞めたくなるときは、きっとそうした瞬間だろう。まったく、なぜ自分は、あるいは人はものを書いてしまうのだろうか。
福音館書店