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週刊広告論
 第16回 「懐」 

学研/2001年7月18日(水)朝日新聞朝刊10 面


 懐かしさというものは、思いのほか制度的なものである。坂口安吾が「ふるさと」と呼んだような情感さえ、仕組まれた実感であったのではないかと思えてならない。広告はそういった懐かしさをねつ造することにひとかたならぬ情熱を注いできた。なぜなら、懐かしい、という気分はとりわけパーソナルなものだという錯覚がいまだ根強く残っているから、そこを心地よく刺激することさえできれば、連鎖的に生まれるであろう対象商品への愛着を、個人的な好みだと勘違いさせることができるであろうから。
 最近の例では、サッポロ黒ラベルの卓球編(2000)というCMがある。ここでは卓球台を挟んで対峙するふたりを描写する際、カットバックにあわせて高い壁に設置された2台の扇風機、宙を舞うスリッパの表と裏、が反復される。このレトロな小道具の反復が、「懐かしさ」の刷り込みであることは疑うことができない。
 今回取り上げるのは学研のふろくの広告である。あの学研のふろくが購入できるのだという告知である。夏休みの課題需要にと打たれたこの広告は、あらゆる方策を使って「懐かしさ」を起動させようという戦略を包み隠そうともしない。
 「ノーベル賞も、ふろくから。」のキャッチコピーはその意味よりも教科書明朝を思わせる書体に沿うメッセージが選ばれている。メインビジュアルに選ばれた商品は「磁界検知式鉱石ラジオ」。ハンドメイドな形状に加え、鉱物幻想に支えられたセレクションであることは、黒バックにハイライトをあてた、商品写真にしてはいくぶんファンタジックな撮影技法からも明らかである
。  しかしながら、この広告がさほど琴線に触れない、すこしずれた感じすら与えてしまうのは、おそらく〈夏休み〉や〈工作〉、〈鉱物〉や〈ふろく〉といった懐かしさへの記号がのきなみ20世紀に消費されてしまい、もはやレプリカを手にするような、実感からほど遠いイメージへと、その存在を摩耗してしまったからに違いない。

学研
サッポロビール