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週刊広告論

第27回 「P」 

ポラロイド/2001年11月14日 朝日新聞朝刊30面


 今はもうないと思うけれど、数年前に「ラブケッティ」というガジェット商品がegg世代にすこし当たったことがある。それを持って街を歩き、同じ製品を持った異性がいれば合図で知らせてくれるというもの。そして相手を発見したら、Yes-Noの返事を送れたりしたような気がする。ここまでいかがわしくはないが、なんだかうんざりさせられるような商品の広告を見つけた。
 今回取り上げるのは半5段という小スペースでの広告である。商品は少し変わっている。広告主はポラロイドなのだが、商品はポラロイドカメラではない。商品名は「ふたり記念日」。そのショルダーに「ポラロイド恋愛ゲーム」と書かれている。ボディコピーには「シナリオの指示にしたがって、どんどん、ポラを撮る・めくるめくシチュエーションに、ぐんぐん、もりあがる・そして、とうとう、ふたりだけの恋愛アルバム、デキあがる・」とある。カメラとシナリオとアルバムを3点セットで売ろうという、これは戦略商品なのである。
 この広告にメインビジュアルはなく、空白の紙面にコピーが一行。そこには「恋人達は、A・B・Cのあい間にPをする。」と書かれている。この商品にはこれしかないという感じのコピーだ。商品世界のリアリティで書かれているし、並べて勝てるコピーが書けるとも思えない。「わたしたちは」でも、「いまどきの子は」でもなく「恋人達は」であるあたりも、道徳的なさじ加減がよく計られている。しかしこの広告にはなんだか、笑えない冗談のような薄ら寒い感じがするのだ。その鍵はたぶん商品にではなく、「恋人達」の「達」にこそある。
 この広告でこのコピーであれば、8割のコピーライターは「恋人達」ではなく「恋人たち」と書く。一目瞭然、「恋人」というワードがその方が強く目に飛び込むからだ。ではこのキャッチを書いたコピーライターはシニフィアンとして文字を見つめる感性に欠けているのだろうか?
 もちろん、そうではない。このコピーにいささか古風な「達」が使われているのは、そのキャッチコピーの書体に「楷書体」が使われているからである。もしもゴシック体が使われていたならば、まちがいなく「恋人たち」が選ばれていたはずだ。では、なぜ楷書体なのか?
 この商品のアイデアソースは、シナリオに沿って見知らぬ男女が恋愛ゲームをする「未来日記」というテレビバラエティである。そしてこの広告の書体と配置は、その番組内のシナリオを想起させるのだ。しかしその時、ロマンティックな「未来日記」の文脈とこのキャッチコピーのよそよそしさが微かに衝突するのである。元来、ふたりへの指示書であるはずの楷書の文が、「恋人達は」と第三者に向けて綴られるとき、わたしたちはなにかおあずけを食ったような所在なさを抱かざるを得ない。その文脈間の齟齬がえも言えぬ不快感を残すのだが、もちろんそんな些細なニュアンスは当の恋人達には無関係のことなのだろう。
ポラロイド