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週刊広告論

第31回 「萬」

ANA/2001年12月25日 朝日新聞朝刊12面


 仕組みは単純なのに、どうもしっくりこない、釈然としない広告というものがある。
 今回取り上げるのは、昨年のクリスマスに打たれた、ANAのキャンペーン広告である。日本全国、どこへ飛んでも1万円というもの。期間限定の値下げ広告というべき内容である。思えば昨年ほど値下げ広告が多かった年もなかった。牛丼やハンバーガー、電話代やプロバイダー料など、どたばたと値が下がっていった。あまりにも現実的なお金の話なので、制作者の創造力が発揮しにくい年でもあったろう。そして最後は飛行機代である。
 この広告の肝は、どうせ1万円を使うのなら、贅沢に飛行機代にしてくださいということである。広告コピーのセオリーとして、誘因の手前でものを言うというのがあるから、キャッチフレーズは「1万円を使おう。」となった。デフレの世の中に向けてのメッセージにもなっているところがミソである。ボディコピーはスマップの二人の会話形式で書かれている。そこでは1万円でできることがまず列記される。フリースが5着、毎月の携帯電話の通話料など、旬のネタがあげられ、つまりあっという間になくなるんだね、と切り捨てられる。そこで登場するのがANAの「超割」というわけだ。
 値下げ広告としてはかなりクリエイティブな部類に入るこの広告だが、なぜか納得できない。たとえば沖縄に往復2万円で行けることが、どれだけお得なのかピンとこないのだ。飛行機やスチュワーデスといった記号への憧れも今や茫洋としている。ただ飛行機に乗るために1万円を払う気にはならないだろう。何より、1万円を贅沢に使おうというアイデアに乗れないのだ。この実感がデフレ気分というものなのか。そして何より気持ち悪いのは、この1万円キャンペーンを通じて、ANAがどこへ行きたいのか、日本の消費社会がどこへ行こうとしているのか、見れば見るほどわからなくなっていくことである。
ANA