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週刊広告論

第33回 「美」 

トヨタ/2002年1月11日 朝日新聞朝刊20面


 意外と糸井重里や仲畑貴志のコピーは個性的ではない。彼らのスタイルはいつのまにかコピーライティングのスタンダードになってしまったからだ。それに対して個性的な書き手というのもこの世界には存在する。駄洒落の真木準、ハードボイルド秋山晶、連呼なら佐藤雅彦(ドンタコス)、そして女言葉の児島令子。女性のコピーライターが女言葉を使うのがどれほど個性的かとか、そういう問題ではない。女言葉コピーという新しいジャンルを彼女は発明したのだ。それはどういうものか。
 今回紹介するのは、わが家でも乗っている車「ヴィッツ」の広告である。ヴィッツの横でバレリーナが踊っているビジュアル。「VITZ Beartiful!」というのがキャッチフレーズ。美しいヴィッツを意味する駄洒落。もちろんそこに特別な何かはない。しかしこの広告のコピーを書いている児島令子の本領はボディコピーにこそ現れる。キャッチコピーのすぐ下から、それはもうはじまっている。
「人は美人に生まれるのではない。美人になるのです!」とそこには書かれている。井戸端会議にでも出てきそうな陳腐なフレーズ。しかしなぜそんな一文がこんな所に書かれているのか。そしてそれはヴィッツとどう関係あるのか? そのサスペンスがあるから、人は下にあるボディコピーに誘導される。
 小さなボディブロックに目をやるといきなり「しかし、そもそも、美人とは?」と書かれていて面食らう。続きを読まざるをえない。「姿かたちだけ?ノン!生き方が美しい人が、美人なのですよね。ってことは、新しくなったヴィッツに乗って生きる人は、かなーり美人度が高そうです。だってヴィッツは…」とどんどん続く。なにかやり手の保険のおばちゃんに無理矢理言葉を浴びせかけられるような感じ。それでもこの広告はまだおとなしい方で、ひどい場合にはこの調子で商品と関係のない文を果てしなく読まされてしまう場合すらある。いったい何が起こっているかわからないうえにスピードが並でないから、まさに読まされるのだ。このある種暴力的なエクリチュールに巧みに利用されているのが、女言葉なのである。
 飲めば飲むほどのどが渇くコーラのように、児島令子のコピーは読んでも読んでも読み足りなさが残る。「ねっ」「よね」が連発されるにもかかわらず、男性が求める女性らしさなどどこにも見いだせない。この、消費そのものを体現しているかのようなシニフィアルなコピーは、無条件で好むのもバカみたいだし、嫌みに感じるのもマッチョみたいだし、懸命に距離をとろうとしなければ押し倒されてしまうような迫力である。これを頼もしい広告というべきか、女性型広告の台頭と呼ぶべきか。美しくないのは確かなのだが。
トヨタ