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週刊広告論
第14回 「政」 

公明党/2001年7月10日(火)日本経済新聞朝刊16面


第1回でも触れたが、連呼型CM(伊東に行くならハトヤ〈61〉etc)が主流だった頃、広告には洗脳というイメージがあった。国家が権力という言葉と親密だった時代である。そうした悪しきイメージは社会が情報化するにつれて薄れていって、現在では広告も政府も、なめられこそしても、怖れられることはなくなってしまった。しかし現在のような状況は意外と最近訪れたことだ。1989年に「メディアセックス」(原題はMedia Sexploitation〈76〉)が出たころから、サブリミナルという言葉が流布しだした。それはいまだ、広告に神話性が残っているのだということを確認させる現象だった。そしてそのころまで、日本の政治は広告を有効利用しようなどとは考えなかった。戦後、ファシズムを連想させる広告というメディアを利用する精神的余裕が、国家に生まれるはずもなかったからである。
 はじめて広告の世界に政治が話題となったのは1992年。バブルが壊れた年に日本新党が「思いうかぶかな、清潔な政治家の顔」というのっぺらぼうの顔が出てくるポスターを製作した時だ。細川政権の誕生に当時この広告が寄与したかどうかは知らない。しかし日本新党の出現は、当時の政治を変えただけではなく、広告にまつわる最後のオブセッションを取り除きもしたのだ。そして、政党がようやく広告の言葉(コピーは仲畑貴志)を使いはじめてから9年、日本の政治広告はどうなっているのだろうか。
 今回取り上げるのは、公明党の広告である。メインビジュアルはゴジラの顔。その中央に「日本アゲイン」というキャッチコピー。そして下にはもっとも大きな活字でこの広告のメッセージである「日本を文化芸術大国にしよう」がある。そして紙面右上には公明党のロゴとショルダーフレーズ「人にやさしい改革」が小さく掲げられている。第一感良くまとまったレイアウトであり、ゴジラをキャラクターに使うというアイデアも、選挙前の広告として悪くはない。しかしこの広告は、なにかあやしい。
 文化芸術団体が寄付金を受けられるような税制をはじめとする、公明党の政策提案の是非を問う気はない。日本の経済は凋落したが、ゴジラは世界が認めるヒーローになったから、これからは「文化芸術大国」を目指そうという広告主が、文化や芸術をどの程度理解しているのかとか、シリーズ広告(ゴジラは第2弾)にして、効果が望めるほどのマーケティングの裏付けはあるのかなどということも問わない。あくまでこの後味が悪いのは、広告表現のせいなのである。
 なんどかここでも触れたが、広告の主なフレーズはメインであるキャッチフレーズと、受けと呼ばれるメッセージコピー、そしてキャンペーンタイトルやロゴのショルダーなどに入るスローガンに分かれるのだが、この広告ではそれらが、オリジナルの政策を伝える政治広告にしてはあまりにも紋切り型のコピー口調でつくられていることに驚く。選挙ポスターのスローガンも兼ねた「日本アゲイン」の、キャッチフレーズとしてのメッセージの弱さ。「人にやさしい改革」の古さは「文化芸術大国」のコトバとしてのつまらなさと無関係ではない。さらにメインビジュアルのゴジラが在版ポジではないかと思えるほどに、デザインが甘いのだ。それほど出来の良くない政党広告を他に知らないわけではもちろんないが、この広告に限っては、クオリティが政策の信憑性を疑う結果になってしまっている。小泉人気の自民党をはじめ、政治はそろそろ本格的に広告を利用しようとしているが、今の政治広告を見ていると、政治家に広告は無理なのではないかとさえ思えてくるのだ。

公明党
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