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週刊広告論
第22回 「首」 

サントリー/2001年9月8日 朝日新聞朝刊17面


 サントリーの缶コーヒー「ボス」が登場して十年がたつ。十年前、矢沢永吉がサラリーマンに扮し、「ボスのむ」と電通CRの首領、佐々木宏が書いた時、この長寿はまず考えられなかった。まず缶に標されたパイプおじさんのキャラクターが爺むさかったし、商品を擬人化するという広告の王道をいく手法で、佐々木宏が円熟の芸を見せるその内容も、まあどうということもなかった。途中佐々木の跡継ぎと目されていた岡康道が参加し矢沢にロボットを絡ませる新展開を見せた後、その岡が突如電通を退社、ボスは一時低迷する。しかし、1998年、ボス・セブンが登場。クリントンの「ガツン」や世界を敵に回して「うのたん」を守るCMでボスは息を吹き返す。それを書いたのは、岡が興した会社〈タグボート〉の多田琢である。以後、多田は広告賞を総ナメにする活躍を見せ、現在のトップクリエイターと目されるに至っている。こうしてボスの広告は、このジャンルのトップによって継承されるという、特異な位置を占めることになったのである。
 ボス・セブン以来、三年ぶりの新製品はBOSS[HG]、HGはハイグレードではなく、ハイ・グロウン・ビーンンズの略。高地産豆を使用しているという商品特長を表している。もちろん広告内容はそんな商品の中身と何の関連も持たない。ドットの粗い画像で永瀬正敏のポートレートが反復され、最後の顔の上にカラーで商品が置かれている。コピーはなし。一目、やはりタグボートの製作による浅野忠信の富士ゼロックスが想起される。ゼロックスではモザイクだったが、今回はドット。可視性は高まったが、今度は反復が加わって複雑化している。この思わせぶりなビジュアルは、テレビCMへ誘導するためのティーザー広告となっているのだが、それ以上の意味も持っている。今年の朝日広告賞の公募部門は、予選落ちした作品が最終選考の審査員によって再選されグランプリになるという異常な過程があったのだが、それは映画「ブラザー」をテーマにした作品で、汚れた壁に立ち小便の痕がふたつ残っているだけという、ノンコピー広告であった(これは純粋な広告でないため、残念ながら転載できない)。意味深でありながらその意味を明かしてもたいした意味は無いという広告。こうした徴候は、深刻な話題に取り囲まれているのにその実何も考えていない、複雑で脳天気な世相をあらわしている、などといった安っぽい分析を誘発する罠のようで、危ない。
ボス
富士ゼロックス