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週刊広告論
第11回 「続」 

ナショナル/2001年6月17日(日)朝日新聞朝刊32面


 多くの広告は、続編をつくっているようなものだ。文学なんかもそうかもしれないが、同質の実感があるのかどうか、よくは知らない。
 今回はナショナル家電製品の生活提案広告である。親娘に設定されたふたりのタレントが「Nの計画」と書かれたボードを持っている。その計画の中身は、キャッチコピーにある「家の事、たのしもう計画」であるらしい。「たのしい」は近年(といってもここ10年ぐらい)の広告タームの紋所なのだが、その貧しさは今回は置いておく。それよりも、この広告の続編性を際立たせるために、48年前、1953年のナショナル洗濯機の広告と比較してみたいのだ。長くなるが全文を引用したい。
 まず、今回の広告のボディコピーと洗濯機部分の商品コピーはこうだ。

家事をラクチンにしてくれるベンリなキカイは、いっぱいあります。
もちろん、ラクなことはとってもいいこと。
でも、ナショナルは思います。
ラクとか、ベンリの向こうには、やっぱり楽しい暮らしっていうのがあるんじゃないかなと。いつものように家事をしてるのに、時間にゆとりができたとか、家族みんなゴキゲンだねとか、最近、食卓がにぎやかでいいねとか。いつの間にか家の中が楽しくなっている。それが「Nの計画」。
いろんな製品を通して、ベンリ以上の価値をお届けしていきます。
この計画に、あなたも乗ってみませんか。
私の自由時間をつくる洗濯機。
乾燥まで全自動の乾いちゃう洗濯機。雨の日でも深夜でも、ボタンひとつ押すだけで、あとはあなたの自由時間です。

 次に、「1台の電気洗濯機で奥様の生活革命」と題された53年のボデイコピー。

朝は早くから夜は寝るまで、お洗濯・お掃除・お料理・お買物・育児と家事に追われて、一日中それこそ目のまわるほど忙しかった奥様方もナショナル電気洗濯機1台で、家族みんなのお洗濯がお掃除やお料理をしながら、それも僅かな時間で美しくできますから、今までゆっくりときけなかったラジオも、新聞や雑誌を落着いて見たり、きいたりすることができ、また坊やには楽しい童話をきかせてやれるなどの余裕が、毎日の生活の上にできるようになりました。あなたの御家庭でも、このように奥様の日常生活に素晴らしい革命をもたらす性能のよいナショナル電気洗濯機を、それにお洗濯の後仕上げには、早く美しくできる使いよい安全なナショナル電気アイロンを、是非御使用ください。
ナショナル電気洗濯機は御家庭の電灯線から使用できます。1回に約360匁(ワイシャツ6枚分)を15分間で美しく洗濯します。1回の電気料金はわずかに30銭です。小型軽量で移動が自由です。

 53年のものは、この長い文章量でたった2センテンスという、現在のコピーライティングではありえない長文でできている。比べると現在のコピーは1文が短くて、カタカナだらけだ。そうでもしないと今の奥様は広告を読んでくれないらしいのだ。というか、そうまでしてやっと読んでもらえる程度のニュースしか持たないと言うことか。しかし内容のわかりやすさは逆だ。子どもに童話を読んであげられる時間の余裕を言う53年版は焦点がひとつでわかりやすい。それに対して2001年版はどうだろう。たとえば「ベンリなキカイはいっぱいあります。」という枕に対して、「時間にゆとり」を置くことは、もはや常人の理解を超えている。むしろ対置されるべきは、にぎやかな食卓のほうにあるようなのだが、そこには子どもの童話の時代に比べて、何か家族の不安がかいま見えるかのようだ。まるで読み方によっては「ベンリ」が家の中の楽しさを奪ってきたかのようにもとれるのだ。半世紀を経て家電品は、醒めた家族を楽しくする、むなしい努力ための道具になってしまったのだろうか。
 ところで今回の続編では、商品も、コピーのテイストも一応は大きく変わっているのだが、母のポジションには驚くほど変化がない。そうした根本的な拘束に目を向けないところが、この広告がちっとも楽しくない一因かもしれない。

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