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週刊広告論

第43回 「曝」 

宝島社/2002年7月16日 日本経済新聞


 正月広告で取り上げた宝島があらたに30段で広告を打った。キャッチフレーズは「国会議事堂は、解体。」宝島社は一昨年あたりから政治風刺広告を打ち続けていて、これはその最新作である。メインビジュアルは青空国会の風景。いろんな政治家のそっくりさんが登場し、350人の登場人物がそれぞれ具体的な役割を与えられ、演じているのでウオーリーを探すようにいつまでも楽しめるようになっている。受けは「今こそ、広場があればどこでもできる「青空国会」を提案いたします! 週刊宝島/宝島社」。青空国会のメリットは、器から中身を変えようということらしい。器が立派だと「自分は偉い」「この場所は、他人には絶対譲りたくない」と思ってしまうから青空国会にしましょうというメッセージ。
 馬鹿馬鹿しいようだが、宝島の政治風刺広告の一貫した特徴は、その提案が実は緻密に練られているということにある。風刺漫画と一線を画するのは、単純な思いつきを細部まで煮詰めている点で、細かいコピーまで熟読すれば、もはやこれは政策として検討すべきではないかと一瞬思わせるほどそれは徹底している。
 もうひとつ、この奇をてらうばかりのような広告がプロまで納得させているのは<白日の下にさらす>というこの30段のアイデアが、近代広告の構造を体現していることにある。西武百貨店の「わたしは行かん」(岩崎俊一・1990)に代表される日本の近代広告のあり方とは、美辞麗句のレトリックではなくまさにメッセージのロゴス(真意)とでもいうべきものを白日にさらすことだったのだ。その意味でこの広告は従来の常識的な文法からほど遠い形式を装いながら、きわめて広告的な方法論でつくられている。まるで近代広告のアプローチは政治的なプロパガンダよりもアンチ・プロパガンダの方向で力を発揮するのではないかとこの広告は言っているかのようだ。どんな政治、政党広告も宝島のように貫通力のある広告は作れないのではないか。
 僕はイデオロギッシュな広告は実は広告というメディアの本質に背いているのではないかと思い始めている。広告そのものがイデオロギー装置なのだから矛盾しているようだが、広告技法を駆使しようとすればするほど、ファッショな広告は陳腐化していくのだからあながち間違ってはいないのではないか。そうした広告の根本的な倫理の是非が最近の広告に対する興味のすべてだといってもいい。話がゾロアスター的な方に流れてしまったが、広告史的に不況時の広告はしょぼいという事実があるので、今の時期こういう広告が打たれたことは塩爺の経済報告などより価値が高かろうと思う。
宝島社