Isidora’s Page
  週 刊 広 告 論  

1・鏡 リクルート
2・穿 フォルクスワーゲン
3・闇 へーベルハウス
4・女 ナイキ
5・虐 雪印
6・擬 マンダム
7・薄 サントリー
8・雫 トイズファクトリー
9・完 Z会
10・本 ミサワホーム
11・続 ナショナル
12・詩 小田和正
13・苦 新潮社
14・政 公明党
15・答 ソニー
16・懐 学研
17・測 阪急百貨店
18・夢 ホンダ
19・正 フォスター・プラン
20・貧 日本新聞協会
21・父 ツヴァイ
22・首 サントリー
23・真 味の素
24・寥 日清
25・剰 松下電器
26・裂 全家連ほか
27・P ポラロイド
28・M JASRAC
29・Q キューピー
30・幸 千趣会
31・萬 ANA
32・胎 宝島社
33・美 トヨタ
34・家 三井ホーム
35・蔽 宝塚エデンの園
36・赤 アサヒビール
37・滅 朝日広告賞
38・褐 明治製菓
39・護 GEエジソン生命
40・国 スクウェア
番外編 スイス航空
41・福 福音館書店
42・蜂 山田養蜂社
43・曝 宝島社
44・鴎 ツーカー
45・心 三菱自動車
46・莫 トヨタ&日産
47・人生 セイコー&ファイザー製薬
48・お詫び 明治製菓
49・本物 サントリー
50・ジョニーウオーカー
51・武富士
52・ネスカフェ
53・大日本除蟲菊
54・セブンイレブン
55・日本広告機構
56・キリン・ラガービール
57・缶コーヒー3種

週刊広告論

第47回 「人生」 

 セイコー&ファイザー製薬/2002年8月23、27日 朝日新聞朝刊


 今からおよそ20年前のこと。それを挟む前後にあたる20世紀の後半50年ほどの日本広告史を決定づける2本のコピーが西武百貨店から生まれた。ひとつは有名な「おいしい生活」で、もうひとつは「じぶん、新発見」である。前者は「我々の生活はこれでよいか?」(1951年・松下電器)以来脈々と続いてきた〈生活〉というキーワードをついに終わらせる役割を担った。後者は「わたしは夜中に突然いなりずしが食べたくなったりするわけです。」(1985年・セブンイレブン)など、様々に変奏されていく〈じぶん〉あるいは〈わたし〉というキーワードをスタートさせたのであった。ところで、この2本のコピーが生まれた同じ時期、ライバル店の丸井は「人生○|○|」というコピーを世に出している。そのことを不意に思い出したのは、もしかしたら今年の広告はとりあえず〈人生〉をキーワードに進むのではないか、という漠然とした予感を持ったからに他ならない。
 今回取り上げる2本の広告はいずれも去年の夏に打たれた。ひとつはセイコーの企業広告。パンパシフィック水泳選手権大会に協賛するという告知で、「あなたの一秒はあなたの人生だ」というメッセージと水泳選手の横顔で構成されている。もうひとつはサッカーのペレが語りかける、ED(男性機能の低下)治療を勧めるファイザー製薬の広告。「人生のどこかで、年齢に関係なく男性の3人に1人がEDという問題に直面する」というボディコピーを肝に据えてつくられている。このふたつの〈人生〉が同時期の新聞広告として現れたのは単なる偶然だろうか?
 本来「人生」というワードほどコピーに適さない言葉はない。たとえば携帯電話の広告に「あなたの人生を楽しくするケータイ」などと書いたとしても、それはコピーとして成立していない。なぜなら、ここでの人生はたとえば「毎日」でも、「明日」でも置換できてしまうからだ。そして「人生」を置換できないものとしてコピーに組み込もうとするのは相当力のいる作業なのである。その意味では、ファイザーやセイコーが〈人生〉を広告するのに成功しているのはそれが、本当に人生を左右する病や時間そのものを商品にしている会社だったからだといえるかもしれない。しかしなぜかそう短絡するわけにはいかない気分である。商品が消費者の潜在的な欲望を顕在化する役目を担っている以上、広告の言葉づくりも、その時代の不在を突き止めるという幻想的な作業にならざるを得ない。「生活を楽しくする」から「わたしを楽しくする」、そして「人生を楽しくする」へ。そんな不在当てゲームが現実のものになるかどうか、あるいはそのことが何を意味しているかを考えることにさして意味はないが、ちょっとした年始の楽しみではある。
セイコー
ファイザー製薬