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週刊広告論

第54回 「セブンイレブン」 

CF


 セブンイレブンの「いなりずし」のCMから20年が経つ。以前にもこの広告には触れたような気もするが、もう一度コピー(ナレーション)を紹介すると、「私は夜中に突然いなりずしが食べたくなったりするわけです。それはもう食欲とかそんなことではなくて、ただもうなんだかいなりずしのことで頭が一杯になってしまうわけなんです。そこでこうやってセブンイレブンへ。こんな自分を私はかわいいと思います。」というもの。今見るとさすがに大仰で文学的な感じだが、当時はコンビニという業態を文化にしたCMと驚かれたものだった。それから20年ぶりにセブンイレブンが企業イメージを謳うCMをオンエアしている。数種あるが、秀逸なのは「777」編で、コピーは、〈店員「合計で777円でございます。」男「ラッキー。」店員「おめでとうございます。」〉だけというシンプルなもの。表情すらわからないロングショットの1カットでできており、空気感とかナチュラルな感じを大切に作られている。20年経ってコンビニはもはや空気のようなものになっていることが実感できるCMといったところか。まあ、この背後にはアコムの「声の笑顔」に代表されるコミュニケーションサービス戦略というトレンドもあるのだろうが、極力そうした嫌みは排除され、好感が持てるようになっている。とはいえしかしまあ、あっけないというのが正直な感想である。20年という年月が変えたのはその程度のものなのか。
 ただ一点だけ、気にしておきたいと思っているのは、いわゆる映画的なロングショットの使用について。テレビができて、日本の映画産業は壊滅的になるのだが、経営的な部分のほかにテレビが壊したのはロングショットという技術であった。ブラウン管が小さいからとかコミュニケーションスピードの優位とか適当な理由は多々あるが、ともかくテレビドラマでロングショットは顧みられず、その影響からか60年代以降、テレビが優勢になるのと同じ勢いでロングショットで画を作る技術は日本映画のなかで急速に劣化していった。それを取り返すことで日本映画を復興させようという運動が生まれたのは80年、相米慎二のデビューあたりからだろうか。そのトレンドは90年以降北野武が担っている。ロングショットのCMでの採用は空気感の重視や小声でのPRというユニクロに代表される現代的な広告戦略にマッチしているというのもあるが、大きいのはDVDの普及に伴うホームシアターの一般化だろう。映画館の画質・音質が家庭に持ち込まれた以上、CMが映画化するのも必然の流れだからだ。まあ、こうした流れがこの先何を漂着させるというものでもないだろうが、ロングショットの流行と、その対極にあるCGの高度化は映像文化にゾロアスター風の二元論を作り出しているのである。