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週刊広告論

第48回 「お詫び」 

明治製菓(2)/2002年9月17日 朝日新聞朝刊18面


 新聞広告はほとんど記憶されることがない。去年はあんな新聞広告があったね、などと話す人がいたら間違いなく業界人だろう。まだしもテレビのCMなら、普通何か思い出せるものがあるかもしれないが、新聞広告では無理だ。その意味では新聞広告はもはや広告としてマイナーな類のものなのである。しかしあなたは、たとえば全国通しで新聞の見開き30段をカラーで広告するのにいくらお金がかかるかご存じだろうか。それは1000万や2000万の話ではない。もしかしたら板チョコの全国年間売り上げより高い額が支払われているかもしれない。そんないびつな媒体に、さらにねじくれた広告が現れることがままある。今回の明治製菓の広告がまさにそう。これを見て、あなたにはその意図が理解できるだろうか?
 紙面中央に巨大なMeijiのロゴ。その上に「Open!」の文字。文字の上下にはお菓子のパッケージを破った跡を表現した模様が入っていて、「Open!」を補完している。しかし、だからどうしたという答えはまだわからない。下半分には明治の全商品がずらりと並んでいて、これが企業広告であることを仄めかしている。創業○○周年記念広告とかだろうか? わからないのでそこに小さく書かれたボディコピーを読んでみることにする。「むずかしそうな本でも、開いてみればすごく面白いかもしれません。ふと見つけたお店が、扉を開けば名店ってことや、苦手なあの人も、心の扉を開けば、ばっちり気が合うってことも。開くって、楽しいことの「入口」を作ること。そう信じて、私たち明治製菓は、Open!を始めることにしました。身近な疑問の扉や、限りない好奇心の扉、そして自分自身をOpen!してみます。(後略)」ここまで引用してもなお、さっぱり訳のわからない広告はそうそうない。おそらく、何度も出てくる「Open!」を軸になにかキャンペーンを回そうとしているのだなと言うニュアンスはくみ取れるのだが、不思議なことにその後、そうしたキャンペーンが行われた気配すらないのである。
 どうやら当時、協和香料化学という会社の食品衛生法で認可されていない材料を使った食品会社が一斉にお詫び広告を出していて、この明治の広告もそれを受けてのものだったらしい。つまりこれは、巨大なお詫び広告だったのだ。そして思いのほか協和香料問題はすぐに消費者から忘れられてしまったので、Open!キャンペーンもいっしょに忘れてしまうことにしたらしい。つまりこの広告は開けっ放しのまま捨てられてしまったわけである。
 かくも広告は虚しいがそれは消費者である自分にも跳ね返ってくる。バレンタインが近づいて、明治は素知らぬ顔でチョコレートの広告を大量出稿し、わたしたちも何喰わぬ顔でそのチョコを買うだろう。消費とはそういうものだし、広告は時間という武器を使って、私たちの記憶を何喰わぬ顔で更新し続けていくのだ。
明治製菓